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日々の破片

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2024-01-02

_ 年末年始の映画

溜まっている録画を観る。

パリは燃えているか

3時間の長尺ものなのでレコーダーの肥やしになっていたので意を決して見る。

が、ルネ・クレマンは名匠ではあってもそれほど良くもなかった。とはいえ適度なタイミングで話を切り替えるので悪いものではなかった。

フランス側も一枚板ではないので、好戦派の大佐(誰だ?)と解放優先派(というかドゴール派)の主導権争いの合間になぜかドイツ司令部とレジスタンスの取り持ち役に奔走するオーソン・ウェルズ(はスェーデン総領事という役回りなんだが、スウェーデンってファシズム政権ではなかったか? とかいろいろよくわからん)、ノルマンディーから動かないアメリカ軍(連合軍とは言ってはいる)と無能(と、アメリカ側からは思われている)ドゴール派将軍、巴里との間を取り持つ好戦派の大尉(誰だ?)とか、血気にはやる若者とドイツ側に立って罠にはめる悪役(多分、ジャンルイトランティニャンではなかろうか)がぐちゃぐちゃに入り乱れて話が掴めるかどうかぎりぎりのところでやたらと豪華なキャストそれぞれの顔を立てながら、紙芝居には堕さないところはルネ・クレマンの名匠たる所以だろう。

見所はジャンポールベルモンドが、ドゴール派の臨時内閣を好戦派が動き出す前に組閣するために議事堂の開放を要求しに単身乗り込むところで、おそらく愛国心溢れるフランス人であれば大感激しそうな警察官(ヴィシー政府側と考えて良いはずだが)たちの最敬礼シーンかなぁ。

ジャーㇽの序曲が長くて驚いたり、間奏曲(ではなく幕間)があったりするのはおもしろかった。

パリは燃えているか [DVD](ジャン=ポール・ベルモンド)

テレビではジャイアンツをやっていたので観始める。

ちょうど、ジェットのところをエリザベステーラーが訪問するあたりから。

以前観たときは気付かなかったが、エリザベステーラーが水溜まりのような泥水溜まりのようなところで足を取られた後に、ジェットが足跡を眺めると水が湧きだすのに気づいてピピンと来るところの芸の細かさがおもしろい。

敵役のジェットがジェームスディーン、まったく望まない将来設計(医者になる)うえに妻はメキシコ系の長男のデニスホッパーの二人のアクターズスタジオに挟まれて、ロックハドソンが頭一つ飛び抜けた背丈以外は大根役者に見えるのもある意味しょうがないかと思うが、実はロックハドソンの見せ場は最後のメキシコ人お断りの食堂での殴り合いだったのだった。ロックハドソンは悪くない。悪いのは過剰演技が流行ったことにあるのだろう。というか、少なくとも次女を口説き始めたあたりからのジェームスディーンの演技にはうんざりした。

ジョージスティーブンスは汚れた顔の天使たちもそうだが、いまいちおもしろくない。

それでどうも以前観たときは幕間(2本続けて幕間がある大作を観ていることになったのがちょっとおもしろい)以降は観ていなかったようだ。観なくても良い映画ではあった。

ジャイアンツ(字幕版)(ジェームス・ディーン)

続けて荒野の決闘が始まる。

似たような題名の西部劇が死ぬほどいっぱいあるので、席を立とうかと思ったら、オーマイダーリン、オーマイダーリン、オーマイダーリン、クレメンタインが聞こえてきたので、おやOK牧場の決斗ではないかと観ることにする。OK牧場の決斗でもこっちがジョンフォードか。

ワイアットアープ(ヘンリーフォンダ)が椅子の後ろ2脚でバランスをとって柱に足を持たせかかる西部劇の保安官かくあるべしなポーズを決めるし、ドクホリディはここぞというところで咳き込んで撃たれるが最後に敵を一人撃ち殺す。

アープの兄貴だか弟は銃の上を左手でぱしぱしこすりまくって連射する。

それよりも、髭面でトゥームストーンに乗り込んだアープ3兄弟のワイアットが酒場で暴れるインディアンを捕まえるために2階の窓から忍び込み(女性の悲鳴となだめる声だけが外で見上げる連中目線)どたばたしたあとに戸口からインディアンを捕まえて出てくるまでのシーンのうまさ(ワイアットアープがなかなかの男だと観ていてわからせる)、ドクホリディが酒場に戻るなりいきなりイカサマ賭博師を追放し、それをとがめるアープにウィスキーだシャンパンだと口論しながらいつの間にか意気投合するシーン、抜群でしびれまくる。

おそらく同じように観ていてしびれまくった黒澤明が七人の侍でいきなり握り飯を手にして暴漢を取り押さえることで凄みを示す志村喬の登場シーンを考えついたのではなかろうか。

すべてにうんざりして現金輸送馬車の用心棒になって8頭立ての馬車を飛ばすドクが上手から下手、それを追うアープが下手から上手(というよりも奥から手前)と教科書的だがおもしろい。

これぞ娯楽映画の金字塔の一つ。抜群だ。

荒野の決闘(字幕版)(ヘンリー・フォンダ)

テレビでは続けてウォルシュの不死身の保安官だが、最近録画で観たばかりなのでスルーした。袖口からスライドして出てくる銃の仕掛け(イギリスの工場で部下が発明した設定)のせいで超早撃ちの凄い奴と勘違いされてインディアンと交渉したりする羽目になるイギリスから来た工場主の息子の物語でおもしろいのはわかっているが、パス。

次に録画しておいたウォルシュの遠い太鼓を観ようとしたら頭が切れている。どうもあとから気付いて録画を始めたらしい。と、妻がアマプラにあると言い出したので、入力をコンピュータに切り替えてアマプラで観る。HDMIは便利だ。

冒頭は海軍中尉が奥地にいる大尉(ゲイリークーパー)の元に小舟(と言っているが実際には40人の中隊が全員乗れるのだから小舟なのか? と疑問に感じる)を届ける任務の説明から始まる。大尉と一緒に奥地の砦(敵側についているインディアンに武器を供与する敵の陣地という設定だが1820年なので敵というのはスペインというかメキシコのようだ。アラモを忘れるなは10数年後)を破壊する任務だ。

で、ジャングル(フロリダが未開の地だった頃の物語)の奥に分け入っていく。

あれ? 地獄の黙示録? と思うと、それはそこまで。

大尉は現地人の女性と結婚して一子を設けているのだが、妻は殺されている。

妻は裏切り者としてインディアンに殺されたのかな? と観ているわけだが、途中の告白タイムで、殺したのはアメリカ兵だということがわかる。大尉はいろいろな思いを浮かべながら、彼らに敵かどうかの区別はつかないからしょうがないのだと言う。

砦の襲撃と破壊は意外とすぐに型がついて、物語の大半は湿地帯の逃避行となる。砦に人質にとられていた女性や商人を連れての逃避行なのでなかなかうまくはいかない。樹上のインディアンの斥候の描写。

無事、大尉の島に戻るのだが、追手は河の向こうに陣取っている。総力戦となるのは見えているのでアメリカ軍は全滅の危機でもあるし、インディアン側も間違いなく相当死ぬ。

そこで大尉は一騎打ちを酋長に申し込む。河の中で男と男のナイフとトマホークの死闘が始まる。大尉が勝つのはわかりきっているわけだが、それでもきちんと戦いを描く。

この映画で一番奇妙なのは逃避行の途中で、大尉がナイフ1丁で器用に髭を剃るシーンが無茶苦茶長いことだ。それを中尉がじっと眺める。中尉の横には複雑な過去を持つ人質だった女性がいる(大尉に惚れているが、中尉は惚れている)。大尉が髭を剃り終わると中尉は一人残ってナイフを取り出す。次のシーンで中尉は頬から血を流している。石鹸を使うんだよと大尉はしたり顔で言う(もちろん石鹸は無いので大尉は凄いということになるのだが、そこまで重要なシーンなのかなぁ。当時の観客にとっては何かを象徴する極めて重要なシーンなのだろうな。あるいはゲイリークーパーの得意技でウォルシュがおもしろがって記録したのかも知れない。わけわからん)。

遠い太鼓(字幕版)(ゲイリー・クーパー)

で、トランボを観る。歴史の流れは知っているが細かなことは知らなかったので実に興味深い。

幼い娘(長じて黒人解放運動に参加したりする)を馬に乗せて話し合う。パパって共産主義者なの? お前はどうだ? わからない。学校に弁当を持って行くだろ? 友達の一人が貧しくて弁当を持っていない。お前はどうする? シェアするよ。そうかい。働いて自分の食い物は自分で持って来いとは言わないのか? うん。

スリーパーセルがどうたらとコラムを書きまくって大衆に受けまくる三浦だか岩田だかという名前の女性が圧倒的な敵役としてトランボの前に立ちはだかる。あまりに無茶苦茶なのでジョンウェインすらひいてしまう。

グレゴリーペックがテレビで最近の風潮に苦言を言っているシーンが映る。

仕事ががんがん減る。ローマの休日を書いて友人にお前の名前で売れと頼む。50%対50%で良い。そりゃおれが貰いすぎだから10%でいいよ。しかし王女と新聞記者(みたいな無骨なやつ)題は気に食わないから、ローマの休日にするぜ。私もそのほうが良いと思う(と居合わせた長女)。しょうがないな。

ローマの休日はトランボの作品だったのか。

泉のシーンを家族で観ながら大笑いする。

というか、グレゴリーペックはリベラル側だったのは知らなかった。が、トランボの作品かどうかを知っていたかどうかは別の話っぽい。

法廷侮辱罪で訴えられるが、上級審にはリベラル派判事が多数派なので問題なかろうと高を括っていると、二人ほど急死して万事休す。収監される。事務室の黒人と一緒に仕事をすることになる。民主党員の俳優がトランボの名前を証言しているニュースを見た黒人は、チクリ野郎はおれなら殺すと息巻く。

出獄したあとは湖畔の豪邸を手放して郊外住宅に住む。隣の家の住人がプールに鳥や猫の死骸を浮かべたり、裏切り者は出て行けと落書きしたり嫌がらせに余念がない。

キング兄弟という独立系プロダクションの社長が1本1200ドルで契約する。友人たちに仕事を与えて(分身の術が必要だと言われたことが伏線となっている)、脚本を書きまくる。

お前が本当に書きたい脚本は? と友人に聞かれて、メキシコの闘牛の思い出を話す。黒い牛が殺されて何千人もの観衆が大喝采だ。3人だけ違う人間がいた。おれとおれの連れ、そして最前列のあたりにいた男の子だ。

キングのところに脚本を持って行く。家族愛の物語だ(キング兄弟の映画っぽくはない)。困ったことに、大傑作だ。

黒い牡牛が作られる。アカデミー賞を獲る。

この社長のところにも三浦の息がかかった眼鏡が脅迫に来るが、キングはバットを振り回して追い払う。風向きが変わりつつある。

カークダグラスがやって来る。この脚本を見てくれ。分厚いな。7時間はあるんじゃないか? 題材は気に入っているが、この脚本は1ページたりともおもしろくない。書き直してくれ。なんという題だ? スパルタカス。

さらに、異様な男が訪れる。カークダグラスへ渡したシナリオを手にしている。読んだ。お前は良い。おれの仕事をしろ。妙に訛りがある英語で高圧的に喋りまくる。読んだ? 昨日の夜に届けたのだが。それがなんだ? おれさまはオットープレミンジャーだ。

そしてポンっと原作を渡す。おもしろい。しかし脚本がくそだ。お前が書け。

栄光への脱出なのだが、今この時に脱出者の成れの果てが殺しまくっていることを考えるといささか複雑ではある。

ある日娘と話していて気付く。隠す必要はないのではないか?

かくして黒い牡牛は自分の脚本だと取材陣に話す。

おおそうか、とオットープレミンジャーは脚本トランボと新聞に公告を出す。

カークダグラスのところにも脅迫が来る。全米2000万人が署名している。トランボを外さなければ客は入らないぞ。カークダグラスはスルーする。

ケネディが試写を観て絶賛する。

おもしろかった。

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(字幕版)(ブライアン・クランストン)


2024-01-07

_ 枯れ葉

前回に続けて2回目の枯れ葉。

前回は観てから数週間たってから書いたので相当間違いが多かった。

男は最初は整備不良(劣化が激しい)マシンのホースが外れて怪我を負うのだが、救急車の搬送時のルールとしてアルコールチェックを受けさせられて業務中に酒を飲んでいたことが発覚、労災として処理されたくない現場監督によって馘首にされるのだった。

女はスーパーを馘首になったあと電気代の節約のためにラジオを止めたりいろいろしたあと、ネットカフェに行って(公的な)求人広告を探す。ネットカフェでは価格が高いとか文句をつけて追い出されそうになって慌てて謝るのだが、受付の男が結局は負けてやったりする。

で、求人広告に出ていたバー(というかスナックというか)でいきなり皿洗いの仕事にありつける。給金は月曜と言われるのだが、好事魔多し。彼女が店に入ろうとしたまさにその時に店主が麻薬売買で警察に捕まり有給休暇を宣言される。茫然としていると、客として来た男との会話となる。男はカフェに誘う。女は今日が給料日だったのに店主が捕まったという。それだと金がないだろう。何か食事もしたら? で、女はシナモンロールを注文して食べる。フィンランドにもシナモンロールがあるのか。そこで映画に行くことになるのだった。(そして電話番号を失くす)

この前に一度、市電の停留所で酔いつぶれている男のポケットをチンピラが漁っているところを彼女は目撃する。

というのもあって、電話番号紛失事件の後、映画館の前での1回目のすれ違いのあとの再会時に男が今度はなくさないよとメモを財布に大切にしまうところで盗まれないように、というような会話になる。

家に招待の前に女はスーパーで皿とフォークとナイフ、迷った末にシャンパンを買う。

男は食前酒という言葉も知らないし、シャンパンの意味もわからない。おまけに明らかに少ないという不満を顔に出す。

酒飲みは嫌い。おれは指図されるのが嫌い。

女はしばらく考えた末に皿とフォークとナイフを流しの下の戸棚の扉の後ろのゴミ箱へ捨てる(その前に、スーパーから持ってきた期限切れ食品を捨てるシーンがあるので、ゴミ箱ということは示されている)

その後、工事現場で男は仕事中に酒を飲んでいることを指摘されて馘首になる。

ホステルで一念発起して酒を断つ。

カラオケ大王と、女2人組のバンド生演奏の店で会話。このバンド、なんかアントサリーとかアリシャズアティックみたいな感じでおもしろい。

Alisha Rules The World(アリーシャズ・アティック)

電話で禁酒したことを女に伝える。

で、(同宿の別部屋らしい)男から背広を借りて足取り軽く彼女の家へ向かうためにホステルから出てくる。映像は男を追わない。音で何かクラッシュがあったことがわかる。

女、待つ。男は来ない。

カラオケ大王と女は道で出会い、入院していることを教えられる。

病院に行くと、患者の名前を聞かれる。苗字を言うのだが、名前はわからないと言う。

家族かどうか聞かれて妹だと答える。(というわけで無茶苦茶でおもしろいシーン)

間。

許可されて案内の看護士がついて部屋へ入る。何か読んであげて。と言われる。入口にある新聞を読もうとすると猟奇事件(だったかな)の記事なので困って、(何を読んだか忘れたが、ここもおもしろかった)

男、意識を取り戻す。看護士が、夫の服だといって渡す。後で返すという男に対して、もういないから返さなくて良いと答える。

という流れだった。

恋の予感に震えるシーンで、ムラヴィンスキーの悲愴が流れる(2回ある)。恋(というよりも孤独な生活からの脱却というか)の予感なのだが悲愴という組み合わせが抜群。


2024-01-27

_ 新国立劇場のエウギニ・オネーギン

指揮のヴァレンティン・ウリューピンはカーテンコールでびっくりするほど黒いぴったりとしたスーツ(背広ではなく上下揃いという意味でのスーツ)を着た手足が異様に長い、スパイダーマンみたいな人で、良いテンポで進む。

とはいえ、1幕1場の人物紹介パートは比較的退屈なのでぼーっと観ていてタチアーナの手紙の場面(2場)になったら、あまりの衝撃に完全に覚醒した。

とにかく、シウリナのタチアーナが抜群なのだ。特に(もちろん聞かせどころなのだから「特に」なのは当然)あの人は何者? の音の美しさ(きれいに伸びてしかも複数の音が微妙に絡み合い共鳴しあう、最高のソプラノの音だ)は文字通り目が覚める思いだ。東京交響楽団とウリューピンの音も素晴らしい。

というわけで、2/3の千秋楽のチケットを終わった後にあわてて買いにボックスオフィスに走ることになった。

レンスキーのアンティペンコも実に良いレンスキーなのだが(第2幕2場のモノローグは実に良かった)、髭と見た目で、オネーギンよりも5歳くらい年下の17歳の純情少年には見えないのはしょうがない。

成田眞の隊長が妙に好演で印象的。とにかく声が通るので、本当にざわざわしたパーティー会場にふさわしい。

グレーミン公爵の歌は長過ぎる(繰り返しだし、内容は老人の説教調の惚気語り)が、歌手(ツィムバリュクという人)が良いので楽しめた。

オネーギンはまさにこの人はオネーギンを演じるにふさわしいと感心する立ち居振る舞いのユルチュクという人。が、逆に真に迫ったオネーギンなので歌えば歌うほど妙な空疎感があって逆におもしろい。プーシキンもチャイコフスキーもオネーギンをまさにオネーギンとして表現しているのだな。で、それを才能ある演者が歌うとどうにも空疎になってしまうようだ。

舞台に必ず出てくるイオニア式の柱と上の三角形がどうにもスタニフラスキーの劇場よりもボリショイ劇場のように見えて(でもイオニア式ではない)、以前聞いた話と違うなぁと思ったが、今回調べたら、今はスタニスラフスキーの家博物館にある舞台を模したものだと知った。こけら落としとなった作品は『エブゲニー・オネーギン』なるほど確かにこれだ。


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