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日々の破片

著作一覧

2006-07-05

_ きつねおとこと列車旅行

風力鉄道に乗って (童話パラダイス)(斉藤 洋)

子供がおもしろいから読め読めとうるさいので読んだ。おもしろかった。

著者の斉藤洋は、ルドルフの連作の人なのでおもしろいというのは読まなくても想像できるわけだが、佐々木マキの軽い絵柄(しかし、ちゃんと本を読んで書いているのだなというのが良くわかる列車の構造の再現性とか)もあって想像以上に気持ちよかった。

主人公は小学6年で、新宿から中野に塾のテストを受けに行く(ってことは、四谷大塚だな)つもりが、誤って風力鉄道に乗ってしまってあっちの世界を旅することになる。あっちの世界がどういう世界かと言えば、列車が風力で走る(風が吹かなければ止まる)という極端なエコ世界だから、ああ文明批判ですな、と短絡できるかというとそうはいかない。

この話がうまく書けているのは、その世界に紛れ込んだ主人公がどちらかというと優秀な子供だというひねり具合にある。主人公は、最初4年生の時にテストを受けたら5000人中4000番台でびっくりして、そこで奮起していまや常時上位50位に入っていて、今日のテストじゃきっと30位以内に入るはずだという確信を持っている。暇さえあれば算数の問題集を解いている。だからテストを受けたいし、それが無理なら説明授業は出たい。解法があっていることが確認できれば気分が良いからだ。

ところがあっちの世界に入ってしまったので、しょうがないのでその世界につきあうことになる。

そこで、この子供は多様性を学ぶのだ。つまり、自分のやってることやこっち側の仕組みを、あっちに行くことで否定することはしない。しかし、こっち側の見方であっちを否定することもしない。最終的にはこっち側で学んだ知識と知恵を使って困難を乗り切る。で、無事、こっち側に帰ってきて第一希望の中学校に受かる。多分、麻布だろうな。

そのガイド役をするのは、キツネ顔の大人。こっち側に来ては失敗例を学んであっち側に生かす役回りなので、どっちの側のことも理解しているのがうまいところだ。その対称としてキツネそのものの弟を出して、主人公に考える余地を生ませる。算数の問題で答えが7.5人になる。主人公は当然それを受け入れる。キツネ顔は最初不思議がるが、解答を読んで納得してそれを受け入れる。しかしキツネの弟は受け入れない。それで主人公は人間を0.5と数えることの意味について考えざるを得なくなる。ついにキツネの弟は0.5というのは子供のことだと解釈して納得する。主人公はそれはおかしいと考える。最初は数字上の方便として0.5を主人公は受け入れている。その方便を受け入れないキツネは、子供を大人の半分とする方便を受け入れる。その方便を主人公は受け入れがたい。その受け入れがたい気持ちを受け入れる。

処女作のルドルフといっぱいあってなも考えてみれば、いっぱいあってなという多面的な大人と知り合うことで多様な価値観を学ぶ物語だった。ユーモアというのは相対化によって生まれるのだから、この作家が多様性を尊ぶのも当然のことかも知れない。

ルドルフとイッパイアッテナ(斉藤 洋)

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
_ たむら (2006-07-11 13:36)

読まねば>風力鉄道

_ arton (2006-07-11 18:20)

風力鉄道、いいよ。単純に愉快な挿絵の入った動物人間の国での冒険物語(というよりはもっとオフビートな列車旅行だけど)としても読めるし、高学年の子供ならステレオタイプじゃないセンスオブワンダーを味わえると思うし。


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