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日々の破片

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2010-07-31

_ トリノのラボエーム

上野でトリノ王立歌劇場のラボエーム。

ラボエームを初演したというのは知っているが、スカラ座なんかと比べると、印象として2流の歌劇場だよなぁと思っていたので、それほど期待していたわけではなかったが、とんでもない話だった。

まず、オーケストラの音が素晴らしく良い。上野とは思えないくらい弦が良く鳴って、たとえばミミが太陽が降り注ぐ部屋でどうしたとか歌うところでは、響きの美しさだけで思わず涙が出そうなほどに感動的で、おそらくノセダという指揮者(これも初見なのだが、両手をぶるんぶるん振り回すタイプの指揮者だった)の作らせ方がうまいのだろう。

実は、開幕前の音合わせが妙で、みんながラで合わせるわけではなく、勝手にメロディーを流すやつもいれば、ボンボンしているやつもいて、てんでばらばらで、なにこれイタリアンという感じだったのだが、それぞれがきちんとうまいのだった。

幕は初演のイラストを利用して作曲家と脚本家(リリクがどうしたとか書いてあった)の名前の幕で、まさか初演時のものではないだろうが、なんとなくほほえましいのだが、それが透けて、左が建物、右が住居で始まる。左の建物は全幕通して利用しているようだった。

マルツェッロが良いなぁとか思いながら見ていて、ブノワが出てくるあたりは例によってちょいと退屈しかけたが、出ていけの合唱までテンポが良い感じで、そのまま引き込まれていて、そしてミミが出てくる。写真で見ると相当なおばさんだが、舞台で見ると美しい。自分でロウソクを消すと、あわててロドルフォも自分でロウソクを消す。今様の演出。

なんかミミがベッドの上で何かを拾って枕の下に隠すが、あれは鍵なのだろうか? でも、もしそうだとすると4幕目の歌詞とあまりに合わないから、ちょっと不思議かも知れない。

で、ロドルフォがどうやって生きているのか? 生きているのだ、のあたりを歌うと、きれいな柔らかい声だが、どうにもあっさりし過ぎた歌い方でまったく食い足りない。つまりあまり感心できず、さてどんなもんかとか考えていると、ミミが実に素晴らしい。声を震わせるところで、いかなる魔術か、ガラスの大きなビンをこするような美しい響きが生まれて、歌があふれてくるようだ。こういう経験は初めてだ。そしてオーケストラがからんで、太陽が窓辺に降り注ぎとなって、もう頭がぼーっとしてくるくらいに感動的な体験で、もしかしたら、おれは初めて本当の音の調和というのものを体験したのかも知れない。

バルバラ・フリットリという名前は、これでおれの中では女神となった。

アマゾンで何か売っていないかとみてみたら、実はすでに持っていることを発見した。

プッチーニ 三部作 [DVD] [Import](フアン・ポンス)

(ジャンニスキッキばかり何度も観ていて、修道女アンジェリカは観ていなかったのだが、アンジェリカを演じていた)

が、やはりロドルフォが食い足りない。良い声なんだがなぁ。演出というかテンポ設定の問題なのかも知れないけど。

2幕目は、子供が楽しみにしていた、森麻季の登場。まあうまいよね。

演出上は暴れまくる役回りで、皿をど派手に割ってたぶん、かけらがオーケストラピットに落ちたみたいだが、私が町を行けばを歌うときは、マルツェッロにちょっかいを直接出しながら歌いだす。

4銃士が陣取るのは、店の外の席。ルルとムゼッタも同様。

この演出はおもしろくて、(追記:最初の箇所でスリの捕り物騒動らしきものまである)4銃士を座らせっぱなしにせずに、マルツェッロは誘惑に負けまいと右端の席に移って女給(追記:子供によると道端の女性とも話しているし、ふらふらしているから娼婦じゃないかとか)とたわむれて、ロドルフォとミミは左端の道端に座った占い師か何かと話していて(離れているだけにミミが彼女はマルツェッロを愛しているのねが強い客観性を持つので構造が明確化されている)、コッリーネとショネールだけが席に座っている。で靴を脱いで、脚をどーんと机に乗せ、その後、まくりだすと、給仕がどれどれとのぞきに来て、そしてついにマルツェッロが立ち上がり、おれの青春は終わってないと歌いだす。演出のテンポが実に気持ち良い。

おれの席からは見えなかったが、子供によると去り際にミミがきっちりとクリームを食べていくそうだ。

3幕は本当に雪景色を作っている。ポワヨンポワヨンした妙な楽器の音が聞こえてくるのだが、あれはなんだったのだろう。1幕よりもロドルフォは良い感じだが、それでもやはり食い足りない。ミミは本当に素晴らしい。

4幕の出だしは当然のように楽しい。ミミが寝たときにわかりやすいようにだと思うが、1幕とはベッドの位置を変えている。(もともと右にあって最初にミミが腰かけていたベッドは奥にどかされているように思う。4幕では中央のベッドが中心となる。追記:と思っていたら子供によると90度視点を換えた配置になっているらしい)

この舞台で、さよなら外套が、実に良い曲だなとわかった。ウリヴィエーリというような名前の歌手。ショネールは水をくみにいくとか言わずに黙って(ロドルフォをハグしてから)出ていく。

そしてミミの回想の歌がこれまた感動的。なんと良い声なんだろう。オーケストラもまた良い。

追記:カーテンコールで、フリットリは正座してお辞儀していたが(野田秀樹の土下座を思い出した)、誰が教えたんだろうか? 何か間違っている気がした。

というわけで、すばらしい歌声の歌手を一人知ったのがまず嬉しい。

Opera Arias(London Symphony Orchestra)

とりあえず、これは買っておこう。

指揮のノセダは、ネトレプコのアリア集を振ったりしているのか。

宝石の歌~アンナ・ネトレプコ/ ヤング・オペラ・ヒロイン(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト)

他にもリストの交響詩を相当録音しているようだな。

Symphonic Poems 5(BBC Philharmonic Orchestra)

おそらく、同じく振幅の大きい厚みがあるドラマティックな演奏だとすると相当良さそうなので検討してみる。

ノセダとフリットリでタイスとか出ているのか。

Thais [DVD] [Import](Massenet)

これはしかし曲に興味が持てないのがなぁ。

一方、フリットリとメータのラボエームはあるのか。

La Boheme(Natale de Carolis)


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