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日々の破片

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2012-03-12

_ さまよえるオランダ人

新国立劇場でさまよえるオランダ人。このオペラはゼンダのバラードは聴いたことがあるが(あまり印象に残っていない)初見、初聴。

序曲がホルンを初めとした金色系の楽器で始まる。オーケストラはうまいものだ。全体を通して、オーケストラは実に良い感じだった。

が、長い。途中からばらばらに旋律が出てくるのだが、全然有機性がなくて、ワーグナーも、最初はこんなものだったのか、とだんだんうんざりしてくる。

で、幕があくと、いきなり陽気に始まり(嵐で大騒ぎしているので、陽気も何もあるわけではないのだが、船長と見張りがかけあい漫才をするので、陽気な感じがしまくる。船長の歌手は良い歌手だ)、なんじゃこりゃと驚く。全然、想像していたものと違う。ノルウェーの船らしい。

が、一転、フライングダッチ号が出現するところは、演出の妙もあって、これはすさまじい。おおー、となり、船長がサンダーバード2号のバジルのような不思議なポーズで、ノルウェーの船に乗り込んでくる。で、独白が始まるのだが、これも長い。なんだこれは? と、ワーグナーの作詩能力も、まだまだ話になりませんな、という感じ。だが、演出はスペクタクルで、オランダ人の歌手も妙に説得力がある。が、長い。イライラしてきたところで、ノルウェーの船長が再登場。また、見張りと漫才をやって、オランダ人との会話となる。「娘はいいものだ。悲しいときは慰められるし、楽しいときは歓び倍増」という実に当を得た歌をうたって、船長の嫁にやることを決める。宝に目がくらんだというよりも、素直にセリフ通りに、風格がある立派な人物で、しかも裕福だから、娘の婿にふさわしい、と考えたんだろうなぁ、とすっかりノルウェー船長に同調するわけだが、なんというか、歌手は良く、演出も良く、オーケストラも良いのに、肝心の曲がぱっとしないまま、1幕は終わり。

休憩中にプログラムを読むと、序曲は短縮版を使ったと書いてある。うーむ、おそるべきワーグナー。あの冗長な序曲ですら短縮版なのか。しかも、全幕通しでやるのが本来とか書いてあるのでぞっとする。ラインの黄金なみの長さなのだな。

で、2幕が始まると、紬車と舵を掛け合わせた舞台装置に、合唱団の糸紬娘がぞろぞろ出てきて楽しい合唱。ゼンダは大柄で小太りなので、娘軍団(日本人合唱団)に混じるとあまりに異様な感じがして、なんじゃこりゃという視覚効果なのだが(ルサルカでは気にならなかったことを考えると、実際に大柄な歌手なのだろう)、歌を歌い始めると、これが実に美しい声で、見てくれは以降、まったく気にならなくなる。これは良い舞台だなぁ。が、やはり音楽は冗長だ。どうして、こうも退屈なのだろうと思いながら音を追うわけだが、密度が薄いのかなぁ。で、狩人登場。これが見事に美しい歌を歌う。ここで初めて、ワーグナーが美しい歌を作れることがわかった。で、オランダ人と運命的な出会いをして(絵が壁から落ちると本人が登場というのは、空想が現実に変わる瞬間を示すには結構うまい方法だなと思った)、2幕が終わり暗転したまま3幕へ突入。それにしても、狩人にさんざんな評価をされているが、親父はいいやつだと思うけどなぁ。同じ職業(船長)の裕福なイケメンのほうが、狩人の貧乏な男よりも、そりゃいいだろう。

で、3幕が始まるが、ここからは、作品自体もえらくおもしろくなる。

長いといえば長いノルウェー水夫と糸紬娘たちのやり取りに引き続き、演出効果が抜群のフライングダッチ号の水夫の合唱が続き、おお、新国立劇場の合唱はすばらしい、と初めて気付いた。血塗られたフライングダッチ号の帆が手前に下りてきて、舞台を覆い、地下へ呑み込まれて、再び後ろからフライングダッチ号に戻ってくるのはなかなかのものだ。

で、また猟師がやってきて、未練たらしい歌を歌うのだが、これまたきれいな楽曲で、ワーグナーって変な作曲家だなぁと思いながら、物陰からオランダ人登場。ゼンダは誠がない、おれこそ伝説のオランダ人だと一席ぶつのだが、理屈がいまいちわからない。誠を尽くす純潔の乙女が、誠を尽くせば奥さんになるわけだから純潔の乙女ではなくなり、結局は呪いにやられて地獄行きという理屈なのかな? で、勘弁してやる、おれは立ち去ると船に向かう。

おれが知っているオランダ人のお話だと、船長は出港して、ゼンダは身を投げるということだったが、この演出はまったく異なり、ゼンダがりりしく舵を取る。かくしてオランダ人は息を引き取る。

曲はあまり感心しなかったが、舞台は素晴らしかった。極めて満足度が高かった。

その他気付いたこと:

・オランダ人が呪われているという伝説は、新教徒だからなのかなあと考えていたが、全く関係ないようだ。むしろ同じ反カソリックの英国水夫がオランダ人をばかにして唱えた説とかもあるらしい。

・丸い船のハンドルは単に舵だと知った。実際には面舵が左回り、取り舵が右回りらしいが、これまで、丸いのが主たる舵で「おもかじ」、多分船の副舵が取り舵(たとえば回転させずに引っ張って動かすので「取り」と呼ぶのだろうと想像していた)なのだろうと、思い込んでいた。調べてみるものだな。

・いささか冗長だが、独白あり、合唱あり、かけあいありの3時間と考えると、そう悪いオペラでもないな。が、おれには指輪のほうがおもしろい。(トリスタンとイゾルデはもっと長くて冗漫だが、音の密度が濃くてまだおもしろいと思う)。というわけで、この作品はあまり成功しなかったというのもうなずけるものがある。


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