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日々の破片

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2013-01-06

_ なんということだ

レミゼラブルは相当楽しみにしていたのだが、たださんが怒っていて、それが確かに正当な理由(アップばかり)なだけに、がっかりだ。グリフィスも、こうなってみると、つまらないテクニックを発見したものだ。

あの話(映画ではなく、レミゼラブル)は良い点もあれば悪い点も当然あって、19世紀的な限界だろうと思うのだが、ガブローシュ(何かの連想で、ガブローシュカと「カ」を入れたくなるのだが、ナウシカかなと思ったけど、良く良く考えてみるとチェブラーシュカだった)を成長させずに退場させてしまうところに如実に表れていると思う。

どう考えても近代の光は、ガブローシュが成長した姿にあるだろう。あの親だから、子供は真理に近づける。エポニーヌ(というか、19世紀にあってもDQNネームという概念がちゃんとあるところが実に興味深い)もそうだけど、ガブローシュと異なり16歳だけにそういう選択ということでまあ、OK。

Les Miserables Live! The 2010 Cast Album(Cast Recording)

(音楽はいいんだよな。特に赤と黒は大好きだ。ちゃんと革命歌のパスティーシュというかオマージュになっている)

で、原作も実におもしろいのだが、19世紀の大物語だけに、しょっちゅう横道にそれて歴史的背景を延々と解説したりしはじめるのが、今となっては逆に辛かったりする。

レ・ミゼラブル〈1〉 (岩波文庫)(ヴィクトル ユーゴー)

で、子供が発見したのだが(おれは存在すら忘れていた)、とにかくアンジョルラスが好き(恋愛ではなく、友情以前の何かから)で好きでたまらなくて、これっぽちも革命の大義なんか信じてもいないのに、使い走りをしたりする(そのまま忘れてしまったり)グランテールの書き方が実に丁寧で、きっとユゴーもグランテールに一番近い考え方なんじゃないかなぁとか今になって想像したりする。だいたい名前が大いなる沈黙の大地(taireとterreは同音だからおそらくそうなのだろうと推測する)で、そこから芽も吹けば花も咲く。ま、やはり倒れるけどな。

散り行く花 [DVD] FRT-144(リリアン・ギッシュ/ドナルド・クリスプ/リチャード・バーセルメス)

歴史的に、最初のクローズアップという技術を採用した作品。一説によると、あまりにリリアンギッシュが美しいので、グリフィスが我を忘れてカメラを寄せたということらしい(このころは監督自らカメラを回していたのか?)。当然、試写時に映画会社の重役達が怒りまくり「顔しか映ってないじゃないか! こんな、ばかげた映画を誰が金払って観るんだ?」と削除を要求したらしいが、ゴリ押しして通させて、クローズアップという技術が映画に導入されることになった。

_ で、つい散り行く花を観たりして

著作権が切れているからアーカイブにあった。散り行く花

確か、近代フィルムセンターかアテネで観たような気がするのだが、もしかして初見かも(というくらいにまったく記憶に残っていない。多分、初見だろうなぁ。ポケコーラや国民の創生は結構記憶にあるから)

始まると延々と中国の港町のお寺やら阿片窟を映すので、はておれは間違った映画をダウンロードしたのか? と悩んでしまった。印象的な始まりだから観てたら覚えているはずだ。

無声映画(もちろん音楽はつく。本来は映画館付きの楽団が演奏するのだった)なのでセリフは聞き取れなくても問題なし……と思ったが、結構、文章が難しくて、停めながらじゃないと読めないところもあった。

たとえば、始まって15分くらいして、やっと本題のルーシーの家の描写になるのだが、「Fifteen years before one of the Battler's girls thrust into his arms a bundle of white rags - So Lucy came to Limehouse」なんてパッと出て消えても、おれには無理だよ。「15年前、バトラー(ルーシーの親父。バトリングバトラーという名前なのかリングネームなのか)の腕に、彼の女の一人が白いぼろきれを突っ込んでいった。そしてルーシーはライムハウス(ロンドンのスラムだと思うが町の名前だと思う)にやってきた」かなぁ。a bundle of white ragsが、つまり布にくるんだ赤ん坊ということだろうが、リアルタイムに読み取るのはきつい。

それにしても、登場シーンから、リリアンギッシュが不幸を絵にかいたようなおどおどして出てくるは、近所のおばさんから結婚なんかするものじゃないとか、街の女性たちからこういう商売をしてはだめよとか、未来に対して何か良いことをまったく聞かされずに育っていることが示される。

で、人の記憶というのは実にあてにならないなぁと、淀川長治が語る散り行く花を読んで考える。

そうしてお父っつぁんが、帰って来て「メシっ」と言うと、その13歳の女の子が慌てて飯つくつる。ところが怖いから、うつむいて、うつむいて飯出す、すると髪の毛引っぱって、笑え、笑え、Smile,smile,smile、と怒るんですね。そうして子供を殴るんですね、この子は、もういじけきってるんですね。

確かに、泣き出すと、親父は「笑え」と怒鳴るし、いじけきっているのは歩き方と映し方で十二分に示されているから、全体は間違っていない。しかし笑えと言うのは料理を作る前のことだ。で、笑うということがどういうことかわからないギリアンギッシュ扮する13歳(には見えないけど)のルーシーは、無理やり人差し指と中指を口の両端に入れてV字型を作ってごまかす(これが映画だよ。ここはバストショット)。

まあ料理の前後はどうでも良いことだった。

確かに、この親父はひどい親父なのだが、しかし髪の毛掴んで殴る蹴るとかはしない。そもそも、ここまでルーシーを(確かにきょどっているし不幸を漂わせてはいるけど)男手1つで育てているのだ。

ここでルーシーに当たり散らすのは、ライムハウスの虎をノックアウトした勝利に酔って女と遊ぼうとしているところを、マネージャに酒と女について文句を言われて、すごーくむかついたけどマネージャには逆らえないので弱いものいじめで憂さを晴らそうとした、その弱いものこそがルーシーだったと説明されている。

で、親父は殴るかわりに、うつむいて料理している背中にフォークをぶつけて、振り向くと素知らぬ顔をする(お前は小学生か、とあまりのしょうもなさにびっくりするわけだが、逆にいうと淀川長治の読みと違って、無暗な暴力は振っていない証拠とも言える。教育がこれっぽっちもない粗暴な親父が、マネージャに怒られてむしゃくしゃしている気分を暴力的に発散したいが、子供相手ではそれができずに、精一杯の意地悪をしていると読むべきだろう)。で、She has to wait ... 親父一人で飯食う。それを眺めるルーシー。テーブルマナーに我慢できない親父は下品な食い方をして5時にお茶に戻ると言い捨てて去っていく。ルーシーはバストショットで、親父はウェストショット(という言葉があるかはわからんけど、この映し方の差は興味深い)。ルーシーは親父の食べ残しを食べる(なんと。でも、まだ19世紀が残っている20世紀初頭のロンドンのスラム設定だから、これそのものは、時代的には並の待遇だと思うんだよな)。というわけで、不幸な境遇でありながら、この親父は淀川長治がいうほどひどい設定ではないのではないかと思いながら先を観る。

(なぜ、これがロンドンが舞台なのかと考えると、アメリカを舞台にするとシャレにならないからだろうなぁ)

で、(これは手紙の筆記体が読み切れないので怪しいのだが)母親が残したらしい大切に隠してあるサテンを髪に飾ったりして鏡の前で顔をつくろう描写であるとか、あるいは扉から出てきて、うつむき加減に歩き出すとか、そこら中に映画が溢れている。

もう一人の主役がthe yellow man(中国人)。

ちゃんと店を構えている。で、ルーシーを気にしているのだが、これは不憫な子供という視線だよな。仏弟子で、仏陀の言葉を伝えたいのだが、うまくいかない。ならば直接、英国へ乗り込もうと乗り込んだのは良いものの、志は敗れて阿片窟に入りびたり、店員をしている(のだと思う)。神父がジイエローマンの店を訪れて、「弟は明日、未開人を改宗させに中国へ行くんだ」と言ってHellと表紙に書いたブレチンを与えるのを「I...I with him luck」と答えて無表情に受け取る(無表情なのは東洋人のステロタイプだからだろうけど)。

で、ルーシーが家に帰ると親父が猛り狂ってる(酒場で女と遊んでいるところをマネージャに見つかって怒られたからだ)。でもまあ、ぶつぶつ小言を言われながら飯を作るルーシー。

ちょっと淀川長治、お前、間違ってるじゃん。親父は数時間後に次の試合が控えていてぴりぴりしているのに、ルーシーがうっかり熱々の料理を親父の左手にぶちまけたから、怒りに油を文字通り注いで鞭で叩かれるんじゃん(文字通り左手で稼いでいるんだから、大事な商売道具をどうしてくれるんだ、ということ。いや、だからといって子供を鞭で叩いていいわけじゃないが、100年以上前のイギリスの話で、体罰上等時代のことだからなぁ)。叩かれるのが嫌で、靴が汚れているととっさに親父の注意をそらそうとする子供心とか、このあたりの映画の作り方はうまい(でも、そのシーンを淀川長治は覚えていなかったようだ)。

で、なぜか店に入ってしまう(のは、いつも眺めて心を癒す中国人の店のショーウィンドウが閉じているからだ)。そこでルーシーははじめて優しくされるということを知る。キスしようとしてやはりやめる中国人だが、これも恋愛感情かどうかは微妙だ。もっとも国民の創生を作った監督のことだから、本来は恋愛映画としたかったのを、あえて微妙なニュアンス(何か天使のようなものが助けを求めに飛び込んできた――神性がそこにあるから、恋愛とは違うものとなる――を所有したいという感覚)で表現した可能性はあるだろう。まあ、アヘンを吸わせたりもしているけど。

でルーシーがなんの悪意もなく(あるはずがない)、Chinky? とか呼びかけるのでポリティカルコレクトネスがドキンとしたりするのだった。

(さらにその後の映像を観ているうちに、だんだん、不愉快になってきたぞ。黄色人種は白人の少女の金髪と碧眼に神秘的な憧憬を持っているという偏見で構造がつくられている作品じゃないか。それにしても差別映画だなぁ、だが表現は表現として見続ける)

で、拳闘士というか親父は自分と同じ祖国に生まれていないものは憎悪しているから、子供が匿われていると聞いて、仲間のごろつきを集めて取り返しに行く算段をする。こんな状態でライムハウスの虎との試合に勝てるのか? (当然予測されるのは、見事に負けて、その腹立ちまぎれで超暴力を中国人に仕掛けることだよな)

あ、このクローズアップ(親父)はすごい。

……どうも、今みたいに自由に映画を観られる状況になかった時代の人たちが薄れた記憶や伝聞を頼りに伝説をいっぱい作ったのだな。

バストショットは会話の箇所ではそれなりにあるし、最初のクローズアップは最後ではなく、中国人(チェンファンと読むのかな。ただしタイトルクレジットではThe Yellow Manとなっているので名前はどうでも良いらしい)が眠るルーシーを眺める箇所。そして実に強烈なクローズアップは怒る親父の顔だ。(ここからはマトモな人間ではなくなったという合図だろう)

で、ルーシーをジイエローマンの店から引きずり出して家に連れ戻す。鞭を取り出すと、ルーシーは物置に逃げて内側から鍵をかける。

うわ、シャイニングみたいになってきた。親父は斧で物置の扉を攻撃するからだ。

……で、ルーシーは死ぬのだが、死ぬところはクローズアップしないし、人差し指と中指作戦がうまく行かないという悲惨さ。

淀川長治が記憶から再構成した映画を語るのは良いとして(ただし、あまりに古くて監督の編集権すら存在しない時代なので、淀川長治が観た編集のバージョンもあり得ると気づく)、最後も随分違う。

それにしても妙な話だった。混乱に満ちたアングロサクソンの国へ、仏陀の教えを伝えに行ったジイエローマンの挫折の物語(全体の枠組み)なのか、バトリングバローズのように弱者へ鞭の一撃を食らわす人間はいないかも知れないが言葉の刃を他者へ振り向けることはしないようにしよう(タイトルの次に出てくるありがたい教訓)なのか。

いや、どれでもなく、これは20世紀初頭、映画が見世物だった時代の産物だ。

奇妙な黄色人種の振る舞いやエキゾチックな服やら飾り物、おどおどする美少女、ボクシングの試合、見つめあう瞳と死、シャイニングのジャックのような狂気で斧を持って迫ってくる親父、そういった奇妙なものを陳列して物語の枠組みを与えた見世物だなぁ。

実に良い映画だった。ちゃんと観るものだな。


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