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日々の破片

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2014-01-09

_ 死が聖へと転化する場としてのWWW

手元に見つからないので捨ててしまったのかも知れないが、20年くらい前に別冊宝島の怖い話の本を買って読んで、何が書いてあったかほぼすべて忘れてしまったが(唐突に思い出すこともあるけれど)、唯一時々反芻するものがある。

怖い話の本―「心の闇」をフィールドワークした、超ホラー・ノンフィクション! (別冊宝島 (268))(-)

おもしろいことに、覚えているものはなくならないものだ。

つまりは、山形浩生の墓としてのWWWだ。

最初にその文章を鮮明に思い出したのは、マサールさんが事故死された時だったが、確かにWWWが墓標として故人の残したものを生者に思い起こさせる場となった。

初期のアジャイルやテストの紹介者としてのマサールさんのWWWは、

それはたとえば、この世界での有名人が逝去した場合などに生じるだろう。

そのものだった。(「この世界」の「この」が生者一般ではなく、アジャイル/テスト界隈の狭い「この世界」ではあるけれど)

今日、興味深いものを見た。

上の山形浩生の文章は「怖い話」というお題のもとの文章なので、どちらかというと怪談としての墓なのだが、そうではなく、何か聖地としての墓へ転化した例だ。

雪が降った

2011年3月10日の飼い犬と降雪を楽しむブロガーの幸福な(相当に個人的な)日記が、そこで途絶えていることをあるとき発見され(元々コーギーの飼い主たちの間ではそれなりに知られていて、震災後すぐに心配された人たちがいたり、ブロガー自身によるニコ動への投稿が残っていてそこからの導線があったりしたようだ)、それが聖地化したものだ。

これだけ雪が降り寒そうなところで海に呑まれたり、家を失った人たちの苦労は並大抵のものではなかっただろうと同情を禁じ得ないし、犬との日常風景はとりわけペットを飼う人間には特に身につまされるものを感じさせる。災害は日常を完全に断ち切ってしまうという事実を厳然と突きつけられる場でもある。

それがどこかで転化して、病気のペットの回復祈願や自分の亡くなったペットへの祈りといったコメントが並び、複数回お参りに来る人もいる。(日記へコメントを付けられるようになったために、そこが記帳場としての機能まで持つとは山形浩生も当時は考え付かなかったようだ)

とても原始的な宗教ではあるけれど、

われわれは墓参りをするように故人のページをブラウズするだろう。それは今の墓参りよりはるかにビビッドでリアルな、そして個人的でひめやかな体験であるはずだ。電子メールのアドレスと同じように、そこには死者と生者の感情がからみつき、独特の世界をつくりあげるだろう。それを温床とした宗教も、どのような形でかはわからないながら確実に誕生する。

の一例だ。

慧眼だ。

(追記:いろいろと前後関係の間違いを修正)


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