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日々の破片

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2014-01-27

_ 新国立劇場のカルメン

日曜は新国立劇場でカルメン。

舞台は3階立てのサイズの2つの壁面を使って、1幕ではセビリアの街、2幕では酒場の壁(ちょっと岩壁風)、3幕では密輸業者の砦、2場では中央に闘牛場の門を配して再び街。

指揮のルビキスは快調なテンポで振り始める。特に印象的なのは3幕始めの間奏曲で、フルートの有名なメロディばかりにこれまで気を取られていて気付かなかったが、実に巧妙に他のメロディが組み合わされていて、すごい名曲だった。これまで退屈なメロディのせいでまじめに聴いたことがなかったのか、それともルビキスの指揮と東京交響楽団が優れているのか、たぶん、その両方だろうけど、色彩の豊かさに驚いた。1幕、2幕ももっとまじめに聴いていれば良かった。ビゼーは独特なメロディ感覚があり、それが微妙に好きになれなくて退屈してしまう点があるのだが、管弦楽として聴くと実に素晴らしい。なんで今まで気づかなかったんだろう? これは3幕2場のチャンチャチャチャッチャチャラチャンチャチャチャッチャチャラも同じで、とにかく初めてビゼーの管弦楽の豊かさを思い知った。

テンポの動かし方もなかなかに強力で、それが指揮者由来か歌手由来かはわからないけれど、マタドールの歌が実に楽しい(演出で、黒い恰好で高いところに出現し、マントをぱっと取ると恰幅が良く、マタドールというよりは、大山倍達のように牛と闘いそうではあるけれど、それにしてもウリアノフという歌手は見栄を切るのがうまい)。ただ、同じ2幕最初のカルメンの歌はときどき地声っぽくなったり、ずれたりちょっと?となった(という点からは、指揮者主導なのかも知れない)。ケモクリーゼ(スカラのリゴレットで観たらしい)のカルメンは、ハバネラは良い感じ(ただ、途中で飽きてしまった)、セギディーリャもいい(が、この曲も途中で飽きてしまった)、2幕冒頭では?となったが、歌って踊って演技して美しく、良いカルメンだったのではないだろうか(1幕の最初のハバネラのシーンと次の喧嘩シーンの間で派手な服から制服に着替えているので、なかなか忙しそうだ)。2幕の5人組が位置をころころ変えながら歌う密輸をやろうよの歌は楽しかった。ホセのリベロは素晴らしい。でもホセはリベルテを理解していないのだが。ミカエラは、浜田理恵で、リューを観たときの印象のままで、うまいし説得力もあり声はきれいなのだが、音量が弱く他の音に負けてしまうところがある(3幕の歌はミカエラの独壇場として作られているのでまったく問題ないのだけど)。

で、3幕の間奏曲のあまりの美しさに完全に覚醒したので、実に楽しめたのだが、いろいろカルメンという作品について考えてしまう。

まず、カルメンは、制服フェチなのではなかろうか。したがって、ホセとの恋愛が覚めてしまったのは、身から出た錆のようだ。彼が制服を脱がざるを得なかったのは、カルメンのせいなのだからだ。エスカミーリョは、そのへんをわきめているからか、密輸団のアジトへもマタドールの衣装のままでやって来るが、休日に普段着でごろごろしていると、あっというまにカルメンの恋はさめてしまいそうだ。

ということは、ホセは3幕2場で、ぼろぼろの野良着で出てくるが、そこで一工夫して、元の竜騎兵の制服を盗むか何かして着て、無精ひげをさっぱり剃って出てくれば、もしかするとカルメンとよりを戻せた可能性はあるのだろう(よりは戻さなくても良いが、さっそうとしたホセを登場させる演出があっても良いなぁと、いつもながらのボロボロのホセを見て思った)。

プログラムを読むと、初演の風景として、3幕以降、観客がブーブー始めて、初演は大失敗で、失意のビゼーはすぐに死んだ。悲劇ですな、と締めている。ふーん、と読んでから、次に1つ前のビゼーの生涯を読むと、あれ? と不思議になる。コンセルバトワールを出た後、アルルの女とか美しき水車小屋の娘とかを次々に発表するが、すべて18回、10回、18回で打ち切りになって、成功しなかったとある。で、先を読むと、オペラコミック座からの依頼で、起死回生の異国情緒あふれるスキャンダラスなカルメンで賭けに出るが、33回目の再演中に病死したとある。

??? 初演は失敗したかも知れないが、他のオペラが最高18回で打ち切りなのに、死亡時に33回ということは記録更新中じゃん。であれば、生前の20回目の再演時には友人たちと祝杯を上げてもおかしくないし、30回目には(すでに病床だったとしても)にっこりとガッツポーズくらいとりそうだし、不幸のどん底で死んだというのは悲劇にし過ぎだろう(いや、よっしゃこれからだ、やっと風向きが良くなったぞ、と感じた矢先の死という意味では不幸のどん底とは言えるが、成功を見ることなく……というのとは明らかに違う)

終演後、バックステージツアー。舞台監督の、ナブッコのように舞台を破壊して終了する舞台は、次の開始時に完全に最初の位置にすべてが揃っているかの確認が大変という話に、すごーく共感する。破壊的なテストをした後に、再テストするときのようなものだ。あるいは破壊的な本番環境テストした後の、本番環境復元であるとか。

ロッシーニ:歌劇「セビーリャの理髪師」全曲《日本語字幕》[Blu-ray](ドミトリー・コルチャック)

ケモクリーゼってロジーナを歌うのか(これまで観たのがリゴレットとカルメンなので、クラシックよりはロマンティックよりなのかと思った)


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