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日々の破片

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2014-03-20

_ なぜ弱いやつが弱いやつを叩くのか

妻が図書館で多分間違って借りてきて放り出すのも口惜しいのか、おれに読めと貸してくれたので読み始めたが、なかなかうんざりして飛ばしながら、ほぼ読んだ(まだ数章残している。また、巻末の解題は読んでいない)。

ハマータウンの野郎ども (ちくま学芸文庫)(ポール・E. ウィリス/Paul E. Willis/熊沢 誠/山田 潤)

1970年代英国の中学に通う労働者階級の子弟のうち特に男子生徒を、旧制度校の非順応派(野郎ども、ラッド)、順応派(耳穴小僧)、新制度校の非順応派、順応派、といったグループに分類し、相違を調査し(定性調査で、なぜ定量調査ではないかについては理由が最初にある)、教育の価値や社会構造の成立について調査した本だ。(早いうちから職業訓練的な性格を持った学校へ進めさせるのが良いのか、それともジェネラルな教育を与えるほうが良いのかといった模索をしていた頃だ)

特に重点は、最悪の存在である、野郎どもに向けられる。

ラッドといえば、a lad insaneでそういう言葉があるのは知っていたが、日本語だと野郎どもというよりも、ヤンキーとかDQNというニュアンスだな。でも誇らしげに自称というか自分をカテゴライズするのにも利用しているから、硬派というのが近いのかも知れない。全然アラジンセインのイメージとは異なって驚いた。

アラジン・セイン 40周年記念盤 (完全生産限定盤)(デヴィッド・ボウイ)

著者はおそらく社会民主主義者で、問題意識は、なぜこの連中(階級制度上は明らかな弱者であり、そのことに対して反抗的でありながら、しかしなぜかやはり家族と同様に中学を卒業するやいなや肉体労働に従事することになり、そこで止まってしまう)が革命に向かおうとせずにむしろ(結果的に)保守的なのか、その理由を知りたいということだと推測する。1970年代らしい。もちろん、それに対して逆方向に強めれば、反革命的であることが望ましい勢力にとってはありがたい結果となるので、両方に利用できる調査だ。

それにしても、1970年代の英国と今の日本の近似っぷりには驚かされる。

明らかに野郎どもは国境を越えた存在だ。

家父長的に高圧的に出る教師には一目をおくが、しかし教師には基本さからい、特に話を聞こうという姿勢を見せると弱虫野郎と考えて徹底的に馬鹿にし、卒業式にはここが最後の見せ場とばかりに消火器の栓を抜いたりして大騒ぎをし学校を破壊する。順応派はそれが順応派であるという理由で軽蔑しいじめ、地元の先に就職した先輩にはぺこぺこし、男であることがすべてだというような良くわからない価値観を振りかざし、卒業するとありつくことができれば肉体労働に従事する。

学校を始めとした既存の権威に反抗的な姿勢を示すが、その結果、逆に画一的な価値観を持ってしまう。父親のことは嫌いで反抗的であるが、にもかかわらず、親父はしっかり稼いでくる。それが男だ、と尊敬らしきものを持つ。そのため、家での父親の「今日は職場で~にがつんとくらわせてやった」みたいな話を聞き、ショービニズムに染まっていく。

知能/知性は原因ではないということは早くから言及される。特にラッドのリーダー格の生徒の自己分析や他者分析の鋭さについて、その言葉を含めて考察している。にもかかわらず、結局は反知性主義にそまり、その能力は社会改革に利用されることはなく、家父長的な価値観に染まり、肉体労働に従事することになる。

むしろ、順応派のほうがあまり賢くはない。そのため、従順であるわけだが、そのため学業に励み、結果的に最終的にはより高い学歴を持ち、より安定した生活を送ることになる。

興味深いのが、ラッドの差別意識についての分析だ。

かれらは、移民特に他人種を差別する。同じ学校のアジア人をゴミ扱いし、暴力を振う。黒人に対してもゴミ扱いし、暴力を振う。

アジア人は相対的に上位の職につくため、同じ労働の場にはいない。したがって、学校を離れれば、オカマ野郎(男らしくない=ダメな人間)という評価をくだし、その存在を馬鹿にすることで、心の平静を取れる。

ラッドの価値観では、直接的な肉体労働による何かをなしとげる感覚は、男らしさの唯一の証明であり、そのために、最下等の労働につくことに倒錯した誇りを持つ。したがって、その仕事が下等であればあるほどむしろ誇らしい。

しかし、そういう仕事は下等なゆえに、より安価な労働力に割り当てることができる。したがって、労働市場での競合は黒人の移民となる。下位労働が誇らしいという感覚と、下位労働はしょせん下位労働で、おれさまだからこんなすごいことをやれるんだぜ、という誇りは、お前より安くても文句を言わないあいつのほうが良いという、経営側が突きつける現実の前に太刀打ちできない。そのため、「あいつ」はおれさまより弱いくずだ、ということを確認しないでは心の平静つまり誇りを保たずにはいられない。その確認作業が差別として表出される。

で?

と、残りの章を読むことになるのだが、今の英国についてのレポートを読んだり、日本の現状を見たりする限り、適度な娯楽と端金を与えておいて、たまに暴れさせればいいやんというのが(著者は違うだろうが)政治的な結論のようだ。

そこで考えるのは、とにかく技術をどんどん進歩させて、さっさと肉体労働という市場を無くしてしまうのが取りあえず、人類にとっては一番重要なことのようだ。あらゆる肉体労働は機械にやらせるのが一番だな。

_ 相対性

とは言え金太郎飴ではある。


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