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日々の破片

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2014-08-25

_ サイバネティックスを読み始めてみた

本屋へ行って岩波文庫のコーナーを見ていたらサイバネティックスが復刊していたので手に取ってぱらぱら眺めた。最初、表紙が逆についているので驚いて、岩波文庫とは思えぬ横書きで句読点が「.,」の本でびびったが、ぺらぺらめくってもそれほど難しそうな数式などは出ていなそうだったので買ってみた。

ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)(ノーバート・ウィーナー/池原 止戈夫/彌永 昌吉/室賀 三郎/戸田 巌)

高校生の頃、ブライアン・イーノの文脈でサイバネという言葉が流行っていたし、それがフィードバックに関するものだというのはわかっていたけれど(音楽は楽譜を視覚で認識して音響を仮想的に再生し、手が演奏し耳がそれを聞いて仮想的に再生した音響との差異を元に修正していく作業だからまさにフィードバックの世界だ)、ウィーナーのサイバネティックスそのものを目にすることはなくてそのまま忘れていた。

眺めると1940年代の本だということがわかり、えらく古い。でも副題の『動物と機械における制御と通信』というのはやたらと興味深い。

ページをめくって『第一版に際して』というウィーナー自身の前書きを読むといきなりシャノンという名前が出てきて、あ、そういう分野なのかと理解した。

それが『第2版への序文』になると、学習する機械(learning machine)という言葉が出てきて、machine learningや遺伝的プログラミングのオリジナルな考え方なんじゃないかとわかりますます興味を惹かれてまじめに読み始めた。

が、この本は1940年代に書かれたものだし第2版にしても1961年だ。

序章はサイバネティックスという学問の分野が成立するまでの歴史の俯瞰となっている。ここは人文的な章なので普通に読めて非常に興味深く、しかも感動的だった。

序章はウィーナーたちが組織した学際的研究の場とそこに集まった異才とそこでの議論、なぜ学際的研究が必要で役に立つのか、そういったことが淡々と、しかしえらくエキサイティングに語られている。最初は1930年代にハーバードのホールで月に1回夕食を食べながらの討論会をやっているうちに学際的研究の重要性に気付くところから始まる。

(引用はいちいち,.にするのは面倒なので、。を使う)

ある時代におけるすべての分野の学問を自由にマスターできるような人は、ライプニッツ以後、おそらく一人もいないであろう。(略)今日では、単に自分は数学者であるとか、物理学者であるとか、生物学者であるといえるような学者はほとんどいない。今日の学者は位相数学者であったり、音響物理学者であったり

するので、

重要な研究成果が三重にも四重にも別箇にまとめあげられているかと思うと、ある部門ではすでに古典的とさえなっている結果が、他の部門ではあまり知られずに研究が遅れているというような有様である。

というわけで、ウィーナーと心臓病の権威らしきローゼンブリュート博士、MITの物理学教授ヴァリヤルタ博士、計算機学者のブッシュ博士、論理数学者のピッツ、ノイマン、シャノンといった人たちが集まって来る。

1930~40年代のことだ。日本が孤立して太平洋戦争と日中戦争をやっているときに、アメリカでは機械から電気へ、10進法から2進法へ、人間による操作から自動的操作へといったことをやっていたのだった。

序章は次の産業革命が起きることを確信し、

腕利きの大工・機械工・裁縫師は第一次産業革命の場合でもある程度まで失職しなかったと同じように、第二次産業革命でもすぐれた科学者や行政官は失職しないであろう。しかし、(略)倍々よりも人間の価値を尊重する社会をつくることである。

と能書きを言うだけではなく労働組合の幹部とも話し合いを持ったりもしたようだが、

このようにして新しい科学、サイバネティックスに貢献したわれわれは、控えめにいっても道徳的にはあまり愉快ではない立場にある。

というところで終わる。実際のところ、サイバネティックスはもっと低次元のところを徐々に変えたに過ぎないけれど(それでも1947年段階ではまだ先のこと扱いしている完全自動工場については、相当なところまで実現している)こういう心配をしているところに、すさまじい自負心を感じて、その気宇壮大さに感心する。

序章でもっとも興味深いのは、コンピュータはミサイルの弾道計算のために……という一言で語られる歴史がより詳細に説明されていることだ。

飛行機が速くなった結果、その速度は弾の速度とそれほど変わらなくなった。それに対して、効果的に(弾は高価であるから)撃墜するためにはどのようにすれば良いか。まずそれだけの速度で移動している飛行機は急激に進路を変えることは不可能だから、直前と同じ方向へ進んでいると仮定する。これは心理学の点でもほぼ真と考えられる。なぜならば戦争状態で緊張している飛行士は複雑な自発行動を取るよりも、それまでの訓練で身に覚えた型どおりの行動を取る可能性が高い。

これらの条件から、飛行進路の曲線を予測する計算機というのは役に立つ可能性が高いので研究対象として資金と時間を注ぎ込むに値する、というわけで開発を始めたという箇所だ。

その前段では加算と乗算は計量式ではなく計数式にすべきで、それはスイッチ操作を高速に行うために機械ではなく電子管、10進法ではなく2進法……というように現代のコンピュータが少しずつ立ち上がって来るのも興味深い。

1章ではニュートンの時間、ベルグソンの時間と題して、非可逆なものを扱う時代が到来したということを説明している(のだと思う)。

天体の観測であれば、5時間後の月の位置と5時間前の月の位置はいずれも求めることが可能だ。古くからある学問としての天文学に対して、気象学は最近やっと学問として立ち上がった。5時間前の雲の位置も5時間後の雲の位置も正確に求めることはできない。そこでは統計学的な記述が意味を持つ。これによって生物学から自動機械への道が開かれた。

第2章ではルベーグとギブズという積分論の数学者と、統計力学の解析学者の2人によって(お互い相手のことはまったく知らなかったために最後まで到達できなかったが)達成された統計力学の説明なのだが、さすがにここからは難しくなってくる。まだ出てくる数式は積分と微分だけなので書いてあることは読めるのだが、はておれは内容を理解しているのだろうか? と疑問になってくる。ある系に対して変換をかけることで平均が1または0のいずれかになると言っているのだと読めるのだが。うまく要約できないから、おそらく理解できていないようだ。

とりあえずここまで読んだ。


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