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日々の破片

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2014-09-29

_ ジャージーボーイズ

妻と映画。

最初、出てきたあんちゃん(トミー)がいきなりこちらを向いて状況を説明するのでたまげた。

後になって調べたら、元はミュージカルで、登場人物が証言して曲を流すという形式だったらしい。

映画としては、現在の爺さんになった登場人物が証言して(なんかフロアースタンドの近くの肘掛け椅子に腰かけてたりして)、アイリスインして過去に戻すというような方法や、ナレーションを流すだけにとどめたりする方法もとれるだろうけど、クリントイーストウッドは映像の流れを中断せずに、登場人物がこちらを向くことで一瞬だけ時間を変える(しかし映像はその時点が長回しで継続される)という手法をとったようだ。フラッシュバックがまったく無い(長めの回想シーンがトニーのパートの最初にあるくらいじゃないかな)。

ニュージャージーの不良バンドが成功したり失敗したりする話だということしか知らなかったので、音楽の面からもいろいろ楽しめた。

タモリ倶楽部の尻ダンスのOP曲がボーリング場で流れているなぁと思っていると、その作曲者をバンドに入れないか? という話になり、へーあの作曲家なのかと思う。

作曲家がやってくると、最初、バンドの演奏を眺めていてあまり乗り気にはならない。しかしボーカルが歌い出し、サビの部分で独特のファルセットで歌い始めると身を乗り出す。作曲家がピアノで曲を弾き語り始めると、ボーカルがやって来て腕を組んで眺めている。バックコーラスを入れる。ベースがやって来る。そしてギターも加わる。ご機嫌な曲なのでウェイトレスが二人で踊り始める。こういったシーンが実にスムーズに流れる。

レコード会社にデモテープの反応を聞きに行く。廊下に沿って扉がたくさんある(まるでホテルみたいだ)。ドアを開けてはプロデューサにデモについて聞き、追い出されるを繰り返す。黒人バンドだと思っていたら白人が出てくるので追い返されたりとか。細かい説明は映像だけで進めるので実にテンポが良い。

紆余曲折あって、バンド名が決まり、あれ? おれは知っているぞ、と思う間もなく、作曲家がぎりぎりのタイミングでバスを乗り過ごして遅刻して新曲を持ってくる(単なる曲ではなくヒット曲を作曲するといって作曲するシーンがその前にある)。ギターが無視しようとするのを押しとどめてボーカルが読み、感心する。と、シェリーが歌われる。そこでフォーシズンズって聞いたことあると思ったらシェリーのバンドか、とわかった。

最初、いかにもおどおどしていて先輩のギターに動かされているボーカルが(ニュージャージーはマイルドヤンキーの世界なのだ)だんだんと渋みを増してくる。

物語は史実をいろいろうまいこと変えている。

ボーカルの娘がオーバードーズで亡くなったのは1980年のことだそうだが、墓地で凝視しているボーカルを映し、レストランの席に茫然と腰をおろしているシーンに変わると、窓の外に作曲家があらわれる。中に入って来て、新曲を渡す。娘を亡くした男へのプレゼントがそれか? それに対して、曲の途中がうまくないからアドバイスをくれといって去っていく。夜、作曲家が妻とベッドで寝ていると電話がかかる。ボーカルからの電話だ。ブリッジの後が良くない。あと細かい音が多過ぎるので少し削れ。

この流れは美しい。

レコーディングに入ろうとすると、レコード会社の社長が入って来る。ソフト路線でもハードでもなく、ロックでもない。こんな中途半端なものを誰が買うか。売り出すつもりはない。作曲家が交渉してラジオ局がプッシュすれば売り出すという約束を取り付ける。一体どんな曲なんだ? と、ここまでまったく曲が入らない(電話口で歌い出すのかと思ったらそれがなかったので、つまりは、そういう演出なのだ。娘が死んで茫然としている仲間を励ますには仕事を与えるしかなく、それは優れた楽曲でなければならず、そしてまったく新しいものでなければならない。そのくらい作曲家はボーカルのことを大切に思っている)

ショーでボーカルが歌う。この曲は知っている。君の瞳に恋してるじゃないか。

すると、実際には1960年代末の楽曲を1980年に組み込んでストーリーを構成しているということで、このあたりは元のミュージカルの脚本なのだろうが、うまいなぁと(後になって、というのはそもそも君の瞳に恋してるは、ボーイズ・タウン・ギャングと椎名林檎でしか知らないし、元がフォーシズンズのボーカル(フランク・ヴァリ)の歌だとはこのときはじめて知った)舌を巻く。と同時に、タモリ倶楽部のOPでシェリーでしかも君の瞳に恋してるまで作曲したとは、この作曲家(ボブ・ゴーディオ)もすごいやつだなと、なるほど確かにミュージカルの素材になるはずだと納得しまくる。

というわけで、元の楽曲が良く、映画作家は最高、しかも脚本がうまいすごい映画だった。さらに、フランクヴァリを演じているジョン・ロイド・ヤングという男が本物に負けず劣らずな歌声で見事なものだ(バンドマン全員。本物には似ていないが伝記ではなくてミュージカル/映画だからそれで良いのだ)。

で、さらにラグドールもこの連中の曲だと知って驚く。

ケヴィンローランドのカヴァーでしか知らないが、実に良い曲なのだ。これもゴーディオだったのか。

マイ・ビューティー(ケヴィン・ローランド)

(ジャケットは最低だが声と選曲は素晴らしい。ケヴィンローランドが自分のソウルミュージック(ソウルフードの意味のソウル)をカヴァーした作品で、マーマレードのリフレクションオブマイラフとラグドールが白眉、というかどれも良い)

というわけでちゃんと聞いてみようかとアマゾンMP3でフォーシズンズのベストを買ってみたり。

The Very Best of Frankie Valli & The 4 Seasons(Frankie Valli & The Four Seasons)

・音楽を聞いて涙を流すギャングという構図はどこかで見たなと思ったら、ブルーベルベットだった。ボビービントンも高い声だが、何かの音楽的要素があるのかなぁ。

・レコードのプロモーションがラジオだというのがなるほど感。

・1年に200ステージというのはすごいなぁと思ったが、アメリカは広すぎてツアーだけではレコードのプロモーションにならないのだろうな。

・1990年のシーンのメイクがまるで蝋人形のように白すぎて、過去の遺物化しているという意図があるのだろうか?

・ステージの撮影を最初はフロアから見上げる形だったのが、だんだん俯瞰になっていくのは、客(端的には演奏する場のキャパ)が増えたことを見せるというよりは、やはりバンドの上昇を示しているのだろうか。ゴーディオのピアノを囲むところからカメラとバンドの距離が近づく。

_ 自分の娘はそれはかわいいものだ

フランキーは、家庭生活は失敗したのだが(イタリア人のイメージ通りで、家庭を本来はすごく大事にしたい男だ)、最後に最初の妻との間の末娘だけが残った。

妻と大喧嘩した後、彼女が階段の上で見守っているのに気付き、My Eyes Adored Youを歌って寝かしつける(と思うんだけど違う曲かも)。

しかし、その後、彼女は家出する。ニューヨークから電話をかけてくる。公衆電話。彼女がそちらでの住処から出てきたところをフランキーが捕まえる。情報通の知り合いがいるんだ。ギャングね。二人は店に入る。彼女はタバコを取り出すと、フランキーはそれを没収する。歌手には禁物だ。お前は妻の美貌とおれの声を受け継いでいるんだ。最高の歌手になれる。練習しろ。タバコは吸うな。

彼女とは、その後も連絡を取り合っていることを作曲家に言うシーンとなる。クラブで歌っているんだ。唯一残った家族で、同じ音楽家の仲間であり、自分の子供である。それは幸福そうではあるのだが、そこに電話がかかる。オーバードーズという言葉が向うから聞こえてくる。

そして墓地のシーンとなる。フランキーは何も言わず、涙を流すわけでもなく、ただ立ったまま墓石を凝視する。

ミュージカルでの表現はわからないが、クリントイーストウッドの演出が実にうまい。胸に去来するあれこれが本当にうまく映画になっている。


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