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日々の破片

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2015-12-20

_ デプレシャンのあの頃エッフェル塔の下で

年末になって、この10年で最大の傑作を観られることになるとは思わなかった。たった2時間しかなくて残念だ。

オリヴェエラの映画がどれだけ映画だろうが、黒衣の刺客がどれだけ魅力的だろうが、マッドマックスがいかれていようが、さらば愛の言葉よが驚異に満ちていようが、デプレシャンの若い頃の3つの思い出の足元にも及ばない。

50がらみの外交官ポールに扮したドルメールが、パリへ戻ると言う。現地で知り合ったらしい恋人がスカートなしの姿で運送業者の手配をしたりする。もう思い出さないよね?とか言いながらベッドでごろごろしていると、souvenirという言葉がトリガーとなり、子供時代を思い出す。

ホラー映画の手法となる。

階段の下から病院を抜け出て来た母親が昇ってこようとするのを、武器を手にして阻止しようとする子どものポール。夜はふけて二人とも階段の上と下で寝ている。妹が毛布をかけてくれる。ポールは家出をして伯母の家に行く。画を書かせてもらう。伯母の恋人のロシア人のおばあさんがやってくる。夫の外交官はモスクワに召還されるが、同行を拒否する(1964年と言っていたかな? ブレジネフ体制への変わり目かも)。男は仕事だから仕方がないというのよね。夫は処刑される。

母親は死ぬ。

空港でポールは職員に取り囲まれる。パスポートがおかしい。ポール・デュダメルは他にいる。

おそるべき地下室にいる。いかにもな中年の査察官がやって来る。ほー、外務省へお勤めですか。なかなかよい職場ですな。そこで別人のパスポートを見せられる。1987年にベイルートで発行されたものだ。それにあなた、パスポートを一度紛失している。

高校生のポール。ミンスクへ修学旅行へ行ったところで、ユダヤ人のエクソダスに協力する。サスペンス映画の手法となる。魂を救えを2作目で撮っただけあって、実にうまい。猥雑な列車の中での東ドイツ国境でのパスポート提出(教師に渡す)、美術館からの脱出。訪れた家から出てくるおそらく無関係な老婆。あるいは地元のユダヤ人グループとの面接場面、帰りの薄暗い駅構内での兵士による誰何。とっさの機転で顔をぼこぼこにする。

その友人は? と地下室に戻る。マルエセイユへ引っ越してその後は音沙汰がない。

そこで第3の回想となり、あの頃エッフェル塔の下での映画になる。

コヴァルキという友人が運転する平たくてでっかな中古のキャデラック(か、それのフランス版かはわからないけど)に乗って広場へ行く。薬学科のほうが美人が多いとコヴァルキ。妹は成長している。みんな立ち去った後、妹の同級生のエステルが残る。2年前に後をついてきていたでしょ。碁をやろうと誘う。

パーティー。スペシャルズのアイキャントスタンドイットが流れ出した。最初テリーホールの声でファンボーイスリーかと思ったが(スカのリズムではないからだ)、でもジェリーダマーズの優しい眼差しが浮かんで、スペシャルズだと思い出した。まさに1980年代だ(でも、アイキャントスタンドイットは名曲だがシングルカットされたとは思えないし、なぜ、この曲をデプレシャンは選んだのだろう? おれにとってはおそろしいほどの効果があったが不思議だ)。

突如クラシックに変わり(映画の中の世界ではなく、映画の映画として)スローモーションでエステルと恋人のうち3番目が入って来る。ポールはただ見ている。そのただ見ているポールのカットでまた同じ曲となる。

恋人のクラブへ行こうという誘いを断り、1人残る。ポールは朝になった街を送っていく。扉のところでキスをする。

家の前に車がとまっているのを弟のイヴァンと妹が見つける。ポール出て行き、ぼこぼこにされる。

ボーリング場。

週日はパリで過ごす。暇さえあれば勉強している。レヴィストロースを読んでいる。ベナ出身の教授のところを訪問し、リール大学に回されてしまったが先生に習いたいのだと頼み込む。ギリシャ語は? 勉強していない。なぜ? 興味がない。うちの学生はみな勉強熱心よ。では僕が必要だ。無能な学生が一人いれば、みんな安心できる。4次元式の問題に解答して授業を受けることは断られるが個人教授を認められる。

金がないので安宿に暮らしている。毎日、契約しているようだ。イギリス人の団体で満員と断られて図書館で泊めてくれる人を探す。ヒゲと長身の美女のカップルに泊めてもらえることになる。トロッキーが演説している写真。

彼女と再開すると、スカートが落ちる。家に呼ばれると、そこでもスカートが落ちる。そのまま寝る。エステルに報告する。エステルと彼女は電話を通じて知り合う。

田舎町に取り残される恐怖にコヴァルキが泣いたとエステルが手紙を送って来る。

コヴァルキとエステルができたのを知ってパーティーの最中に一室でコヴァルキ、エステルと話し合う。ボブが扉を押さえる役目。

ベナンから来た教授の部屋でヴォルフのレコードを聴く。教授は眠る。唇にキスをする(家族を見ているのだ)。

そういった、細かなシーンが積み重なって、時間が過ぎて行く。

パリでポールはエッフェル塔が見える屋根裏部屋を借りて住みはじめる。

エステルを一度だけ連れてくる。美しいシーン。

ポールは博士課程に進み、フィールドワークのために海外にいる。エステルから電話が来て、別れを告げられる。受け入れる。彼女を世に出せなかったことに対する悔恨。

パリの生活。コヴァルキからの手紙に憤激して返事を書こうとして半分書いたところでやめる。パリでコンサートを聴いている。終って出ようとするとひげをはやしたコヴァルキ夫妻に出会う。ソファがある店で飲む。コヴァルスキに対して、エステルの話を蒸し返して、エステルを周到に誘惑したと責める。鬱憤が晴れて外に出ると、本の切れ端がたくさん舞っている。一枚を拾うとギリシャ文字がある。

エステルがギリシャ文字の読み方をポールに説明している。暗号みたいでおもしろいから勉強したけど、あきてやめた。思い出だ。

ところどころ、ほとんど意味なくアイリスを使ったりストップモーションを入れたり、好き勝手に映画を撮っている。3作目の途中でローザ(おばさん)の幽霊が墓場の後ろから出てきて説教を垂れる。父親と話しなさい(ベナンから来た教授もそう言っていた)。父親は妻の墓のほうにいる。

それにしても、アイキャントスタンドイットでつくづく感じたが、デプレシャンはおれと完全に同じ時代を生きているのだな。それが、この作家がおれにとって特別に特別な映画を撮れる原因なのだろう。

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