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日々の破片

著作一覧

2017-12-02

_ 村は燃えているか

妻が図書館で借りて読み終わったあとに、おまえのすきな大正時代のアナーキストの本だから読めと貸してくれたので読んだ。3時間かからなかった。

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝(栗原 康)

まあ、全部知っていることだが、うまくまとめてはあるので、それなりには楽しめた。著者のひいきの引き倒しが過ぎるので、青鞜での論争の部分はさすがにうんざりもした。だが、悪くはない。リバータリアンが確実にリベルテールと異なるのは英語とフランス語の違いではなく、相互扶助という概念の有無にあるわけだが、この本では明らかに正しくアナーキーだ。後藤新平に送ったという4mの巻物は知らなかったのでおもしろかったし、葉山で1度戻らざるを得なくなる間抜けたところは何で読んでもおもしろい。らいてうがくそみそにこきおろすぶっかけ飯がアナキストたちにはご馳走だというのは、単に腕前が上がったからだと思うが、ここもひいきの引き倒しな書きっぷりでやはり辟易するわけだが。それでも青踏社で一の糞尿を始末するところとか、おしめをしぼって乾かすだけなので、これはひどいと村木源次郎や大杉栄がちゃんと後から洗うというようなところは、普通に人柄がしのばれておもしろい。

この本の欠点は、おれが徹頭徹尾この著者の文体が嫌いだという点だ。妻によれば講談調なんだからしょうがないんじゃないとのことだが、こんなに滑舌が悪くリズムに乗っていない講談調はない。読み終わって奥付見てなんとなく納得した。頭がでかくて重いのが、むりやり講談調をやろうとしたが、頭の重さが災いしてしまったのだろう(ちょっとそのあたりは、頭脳警察の詞みたいなところがある)。なんと無様な踊りだ。

それにしても、ここにも完全に引用されているが、辻潤が染井の思い出について書いた文章は大正時代(いや、おそらくその印象的な書きっぷりは明治以降全部ひっくるめて)書かれた恋愛生活について最も美しいものだ。

染井の森で僕は野枝さんと生まれて初めての恋愛生活をやったのだ。遺憾なきまでに徹底させた。昼夜の別なく情炎の中に浸った。初めて自分は生きた。あの時僕が情死していたら、いかに幸福であり得たことか! それを考えると僕はただ野枝さんに感謝するのみだ。そんなことを永久に続けようなどという考えがそもそものまちがいなのだ。

あまりに美しいので、青空文庫のために打ち込んだ人がいるくらいだ。

それにしても、村木源次郎の追悼文について思いをはせざるを得ない。どうして毛深いとか気持ち悪いとか追悼文に書こうと考えたのだろうか。あるいは辻潤をして襟垢娘(すごい言葉だ)と書かざるを得なかったのだろうかとか、いきなりおむつを絞って干すようなところとシンクロするようなエピソードだったのだな、と思う。

_ 希望のかなた

ユーロスペースでアキカウリスマキの希望のかなた。

今やユーロスペースも事前に席を予約できるようになったので、午前に整理券を取ってとかして午後出直しとかしなくて済んで楽になったな。

予告編が長い。天皇特集は目の付け所がおもしろい。松本俊夫といえばドグラマグラしか観ていないなぁブーンとか、香港のミュージカル興味ねぇーとか観ていてもそこは生来のミュージカル好きなので群衆シーンでは思わず満面の笑みとなったり、2人のカトリーヌは映像が凡庸だなぁとか、リスとウサギの2人組は出てこねぇなとかだらだらしているうちにやっとスプートニク。

例によって唐突に始まる。ホテルの一室っぽい飾り気がない空間でじいさんがネクタイしめてスーツケースに荷物をつけて食堂に入る。ばあさんが飲んでいる。テーブルにおっさんがカギを置く。指輪を外して置く。出ていく。

ホテル代が払えないので指輪で払ったのか? と思って見ていると、ばあさんが指輪を取り上げてしげしげと眺めて灰皿へ捨てる(登場人物はほぼ全員が喫煙者だ。じいさんだけは違うような)。

ってことはホテルじゃなくて結婚指輪だったのか、と気づく。

じいさん、倉庫から適当に服を車に乗せて出ていく。黒いでっかなセダン。

港に船が着く。唐突に石炭の山の中から黒い顔が浮かび目が開く。なんじゃい?

真っ黒な男が出て来て、こっそりと外に出ていく。

二人がすれ違うというか、男をじいさんが轢きそうになる。何事もなく別れる。

と、いきなり映画以外のなにものでもない映画が始まる。

圧倒的におもしろいじゃないか(わかってはいることではあった)。

じいさん、服屋をやめてレストランのオウナーになろうとしているのだと、途中の服売り行脚でわかる。メキシコで余生を過ごそうとしている女性に売るところでわかる。というか、ほとんど売れない。

結局倉庫を空にすることができる。

カジノ。入口の用心棒に話かける。しばらく話して裏へ回る。

現金を見せる。手前の席のじいさんがOKを出す。スタッドポーカー。

朝になる。6万まで増えた。そろそろやめよう。やめない。3カード。ストレートフラッシュか? 全部の賭けとなる。勝つ。2度と来るな。

とても良いシーンだった。

フィンランドもユーロだから12万で100円として1200万円か。

不動産屋。3万の物件。というか、300万円って安いな(フィンランドの相場がわからんので良くわからん)。

やる気のないレストランを手に入れる。やる気のなさの象徴がランチのサーディンなんちゃら。蓋を開けただけのオイルサーディンとジャガイモ2つと、あと1つは何だったかな。

2万5千で決まる。良い買い物をしたと語る元オウナーが、レジから全現金を抜き、給料の遅配をどうすんだ? と聴く従業員たちを振り払って入り口(トイレ?)の小銭もすべて掴んで去って行く。。

と、だらだらとじいさんの話が進行している間にも、黒かった男は街角音楽家にコインを渡し、駅の地下のシャワールームを教えてもらう。良い男だが背は高くない(あとで171cmとわかる。体重71kgだが、そんなに太ってはないように見える)。

警察署に行く。難民申請をする。

ルアーブルに引き続き難民の物語だった。アレッポの自宅はミサイルで粉々となり妹を除いて家族全員死んだ。埋葬費を殺された婚約者の父親=上司からもらって埋葬してトルコ国境から出国した。ハンガリー国境で妹と離れ離れとなり(というのはすべて審査官の前で語る)。

襲い掛かる3人の自由フィンランド戦線。革ジャンパーがわかりやすい。

難民申請は許可がおりない。アレッポは指定戦乱区域ではないからだ。帰れ。

テレビのニュースでアレッポの小児病院が政府軍の爆弾で破壊されて子供たちが殺される様子が映る。

最後、妹はリトアニアの難民施設にいることがわかる(携帯電話のおかげで映画のスピードも高速化したものだ)。というか、なぜハンガリーで分かれた妹がリトアニアにいるんだ? という不思議さは、トラックで妹をフィンランドに密入国させる都合上ということで帳消しとなる。というか、本人もいきなりドイツの港町でスキンヘッヅに襲われて逃げ込んだ船が気づくとフィンランドへ向かっているという設定なので、そういう映画らしさはいつも通りだ。

・アキカウリスマキの映画のおもしろさはカットから次のカットへの意表の突き方のうまさなのだなと考える。AからBへ進むのは凡庸で退屈だ。しかしAから☆へ飛ぶとあまりの飛躍についていけなくなりそれはそれで退屈だ(思い付きで繋げたなという感じだ)。それが考えられる最善から最悪までのシナリオの中で、最悪ではないがそれほど善いわけでもない微妙なところに連続的に飛んでいくおもしろさなのだろう。スリリングですらある(そういえば初期の作品はすべてサイコサスペンスに近いものがあった)。3人で話し合っている。売上は落ちている。なぜか。ビールしか売れていないからだ(コックが最低なのでそこまでは当然の流れ)。そこから、音楽を入れるという提案が出る。弟が寿司屋で繁盛しているという話が出る。本屋のディスプレー(飛躍だ)。寿司の本(音楽に進むと思わせるので少し飛躍)。手が伸びてそれを掴む(まあそうなるか)。そこからの怒涛の展開はシナリオとしても現実としても映画としてでさえ、少し(この少しっぷりが絶妙な映画のうまさなのだろう)おかしい。

映画を堪能しまくりの至福の時間が過ぎて、先日松濤美術館へ行くときに見かけた行列のできているカレー屋を目指す。カレーの香りが道に漂い、次にタバコの香りとなる一角で、はてどこに目当ての店? と探すと閉まっていた。

妻と行列ができるくらいだからきっとソースが切れたのだろうと話す。

行ったことがないスリランカカレーの店をめざす。

ローリングストーンズがかかりまくり、入り口にはボウイのブロマイドがぺたぺた貼ってある店で、じいさん(ムルギーのタイプではなく、頭にバンダナのタイプ)が切り盛りしていた。

味はこれまで食べたタイプだとデリーとかのさらっとしたカレーに近い。結構おいしかったので、近くに来た時に他に候補がなければ再訪する可能性はある。


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