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日々の破片

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2020-11-02

_ 新宿歴史博物館

どういう脈絡か忘れたが、妻と新宿歴史博物館へ行こうという話になった。

都バスの荒木町で降りて杉大門通から一本早稲田寄りの小路に入る。柳新道というらしい。で、猫廼舎の裏を通って車力門通りに抜けて、途中お稲荷さんと弁天さん(池はあるけど五寸釘が生えるようなご神体は無いのかな)を通り、やたらと美しい建築の古いアパアト(と、モダニズム調の表記が合うが、戦後の建築物だろう)を通ると、道なりの曲線に沿って異様に塀のカーブが美しい家の前を過ぎて、津野坂通に出る。で、津野坂通を挟んで半蔵門側はやたらと近代的な敷地を広く取ったビルやら空き地やらがあり、どうしでここまで風景が異なるのか、とか考えながら歩くと新宿歴史博物館に着いた。

脇を車で通り過ぎたことはあるが、来るのは初めてなので楽しみだ。

常設展とは別に、特別展で小泉八雲をやっていたので共通券を買う。

小泉八雲はいくつもの記憶と共にある。最初に買った文庫本は小泉八雲の怪談・奇談で、角川文庫だった。まだ源義が焼跡うんぬんの創刊の辞を後ろに載せていたころだ。

怪談・奇談 (角川文庫)(ラフカディオ・ハーン)

(今や随分モダンな表紙になっているが、僕が買ったのは餓鬼草子から抜き出した幽鬼の絵だったような)

そもそもそれより前に家族で山陰旅行をしたときに松江の小泉邸の八雲が住んでいた狭い部屋とその前のこじんまりした庭は見ているが、その後妻と再訪したので、どちらの時の記憶かは曖昧だが、こじんまりした庭がユニバーサルで実に興趣があった。

とはいえ、新宿が終焉の地という認識はなかった(が、よくよく考えれば知ってはいたのだ)。

まずは常設展に入る。

渋谷や港区とは違うな! というのが第一印象で、江戸時代の内藤新宿の賑わい(それにしても、外堀よりも外側で、さらには大門すら通り過ぎた後にまでの賑わいが不思議で、甲州金山は比較的早く潰れていること考えると、なぜだろうかと疑問に感じる。まあ、百人町とか物騒な連中が住まわされているのだから、江戸時代もそれなりに賑わってはいたはずだ。と、簡略化した新宿通りの江戸時代の再現ジオラマを見て不思議に思う。

まあ、神田川と外堀があるから運輸の中心でもあるわけで、そうおかしな話でもないが、それにしても太田道灌の時代から新宿は新宿なんだよな。

ちょっと細民窟に近いあたりの人別帳が出ていて、圧倒的な古着屋量で、なんかいろいろ仕入れとかについて想像する。中に粉奈屋というのがあって、はてなんだろう? 粉の奈というのはわからんがパンみたいなものか? と調べたら、粉奈と書いて「こな」と読むとわかり、ほーどうして現代語では「奈」が欠落したのだろう? と不思議になる。

そして明治になり怒涛の文人攻撃が始まる。どうしてこんなに新宿なんだろう? (徳富蘆花が渋谷区だというのは知っているが、それにしても新宿の多士済々っぷりは壮観だ。

展示の工夫が特におもしろいのは、昭和初期の新宿駅を訪問する人間6種類の金の使いっぷりの展示だった。

会社員は定期で直接の支払いは0円。カフェーによってムーランルージュのレビューを見て云々で全部で幾ら使う一方、その妻は伊勢丹で夫の背広の相談0円、白粉買って100銭(金額はうろ覚え)、子供と伊勢丹の食堂できしめん(なぜきしめん? 当時、名古屋ブームでもあったのかなぁ)食って11銭、新宿駅に来るのに市電に乗って35銭(金額はいい加減)。

学生は(忘れた。本屋へ行って喫茶店に行くとかだったかな)。活動は見たかも。

有閑マダムは省線で新宿駅に出るので15銭(うろ覚え。会社員の妻よりも安いのは、都バスだと210円だが、小田急線だか京王線だかなら160円くらいで安いってのと同じだな、と思った)、中村屋でカレーを食べて80銭、あとは何をしたかな。

唐突に映画監督というのが出てくるが、要はマスコミ関係者ということだろう。

円タクで来るので1円(この時点ですでに会社員の妻や学生を遥かに上回る金額が出て行く)。その後もダンスホールへ行ったりしてみるみる円単位で金が出て行き、全部合わせて15円みたいな勘定だった。

あまり変わらんな! という印象も受ける。

驚くのは、乗降客数が、東京、上野がそれぞれ15000人に対して新宿は35000人と倍以上を捌いていることで、なぜ? と思う反面、東京や上野は上京用で、会社員の日常使いの駅ではないからかな、と考える。

おもしろかった!

で、特別展へ行く。

入るといきなり、八雲が着ていたスーツというのが展示してあって、小柄っぷりに仰天する。こりゃ確かに日本に来て気分が落ち着いたというのも無理からぬことだ。

小泉八雲については知ってはいるが、そうは言っても渡米してからの苦難の歴史と恩人にして友人(にして父親代わり?)にして雇い主との大量の手紙が展示されていて興味深い。ポーに因んで大鴉(Raven)と呼ばれていたので、手紙には鴉の絵が書いてあるとか(結構うまい)、嫌いな犬が吠えている絵とかいろいろある。それにしても書き文字の英文は読めないなぁ(書き文字の明治の日本文も読めないけど)。

年表に帝大馘首の横のその他欄にさらりと夏目漱石倫敦から帰日とあり、あーそういえば不機嫌亭漱石でそのあたりのことが書いてあるのを読んだなと思い出す。

坊っちゃんの時代 : 5 不機嫌亭漱石 (アクションコミックス)(谷口ジロー)

息子が描いたほぼ唯一の左からの顔とかいろいろ見ながら、激動の幕末から明治に日本に帰化して物静かに日本を眺めていた不思議な人という思いを強く持つ。近代化を嫌ったので熊本(かな?)に馴染めなかったということが書いてあって、妙なところで坊ちゃんと縁があるなぁと思った。もっとも坊ちゃんは松山だが、むしろ田舎の中心地のほうが近代化というか人々の変わり身の早さがあったのかも知れない。

それにしても、新宿区は良い仕事しているなぁと思った。


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