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日々の破片

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2020-11-21

_ 新国立劇場でアルマゲドンの夢

楽しみにしている日本人作曲家委嘱シリーズで、無くなるのかと思ったら、こうもりの直前に押し込んできて、おそらく文化庁の予算消化とかの都合で無理矢理だなぁとか官僚仕事にうんざりはしながらも、楽しみだったので観てきた。

いずれにしても現代のオペラは難しい。

市民オペラという形式で観客収入(と、おそらくその後の教師収入)を当てにするしかなかった魔笛のモーツァルト(魔笛より前は王宮の予算のはず)以降、オペラは紆余曲折をたどる。

規模と作曲可能本数、役者/歌手への支払いなどなど規模が大きいだけに厄介至極だということはすぐにわかる。

劇場経営が破綻したドニゼッティ、レストラン経営に移行したロッシーニと明暗分けながら、19世紀にヴァーグナーが魔笛より前のモデル、つまりは王様の予算で収入を得るに戻る一方で、ヴェルディがリコルディと組んで楽譜と著作権収入というモデルを確立する。

みんなが歌いたがるアリアで当てれば楽譜が売れてお金がどばどば入る。

このモデルは市民が自分で演奏する形態からエジソンのレコード登場でメディア売却モデルへ移行し、途中カラオケで市民が自分で歌うモデルになりメディアはストリーミングに移る。のだが、その時にはオペラは主役ではなくなっていたというか、基本誰もそんなものに興味を持たない(街で100人に聞いたら、オペラを聴く人歌う人は0人だ)。

というわけで、ヴェルディが確立した売れるアリアによる著作権収入時代は、プッチーニとコルンゴルトでほぼ打ち止めになり、王宮予算モデルか市民劇場モデルへ逆戻りした。

で、アルマゲドンの夢は文化庁の予算なのだから王宮予算モデルであり、実績ベースの予算配分となる以上は、無理矢理押し込むしかなかったのだろう。

おかげで、日程調整が難しく、厄介なことになったのはこちらの事情だ。

頭白紙で観たらどんなものだろうかと試して、鑑賞後にプログラムを読んだのだが、誤読の嵐で、自分のことながら情けなくもあり、おもしろくもある。

まず、全体的に20世紀~21世紀のオペラ史をたどっているのかと思った。

最初に合唱で舞台が説明されるというのは、普通にオテロっぽく感じる。オテロはこの後も、柳をテーマにした歌が出てくるが、オテロというよりはむしろヴェルディその人だろう。1900年、まさに19世紀が終わる年に死んだのだ。

娼婦と思われる女性との空想的な恋愛から始まり(ここではアップを多用したスクリーンプロセスがアランレネの広島モナムールを想起させてアルマゲドンの夢という題をまさに思わせる。もっともそこに舞台の動きがからまるため、全体の印象はロブグリエの映画のようでもある。ちょっと60年代っぽい)、海岸の素敵なコテージかコンドミニアムでの甘い生活となり、途中で世間様という動きが二人の生活にちゃちゃを入れ二人を別れさせるための闖入者が出現する。そして妻であるべき女性が死ぬ。

椿姫だ。

一方、地下鉄の中で背景説明が行われるのは、バーンスタインのオン・ザ・タウンのようである(もっとも原作が通勤風景らしい)。

いずれにしても楽曲的な関連はないのだが、オペラを観るという行為によって喚起されるものとしてはヴェルディ以降のオペラ史だ。

大衆の前で吊し上げられ拷問され死んでいく二人の主人公にからむ近しい存在は、リウを当然思わせる。

ただ(ここは完全に誤読していたようだが)リウに相当する冷笑者を、おれは、主体的なテロリストなのだと読んでいた。

この大衆たち、サークルは、白いヘルメット、甲殻姿(コロナによるマスキングが不要だったら、別の衣装となっていたのかも知れないが)は、オペラはオペラでもスペースオペラ、つまりはスターウォーズを喚起し、サークル=ファーストオーダーとして観始めている自分に気づく。なるほど、ベラは直前までは椿姫だったがトロツキーが家に訪れて(と、突然、虹色のトロツキーを想起するような冷笑者のスタイル)、レイになったか。レイの出自はパルパティーンで、同じくベラの両親はサークルの創始者であった。

終わりに近く、二人がサークルにテロリズムを仕掛ける直前に歌うアリアが抜群に美しい。メロディはあくまでも現代の音楽の文脈、無調性にあるのだが、未来と希望について腹中の子供へ語り掛ける。

ここでもトロツキーを想起する。

人生は美しい。未来の世代をして、人生からすべての悪と抑圧と暴力を一掃させ、心ゆくまで人生を享受せしめよ。

もちろん、そんなに世界は甘くない。100年たっても悪も抑圧も暴力も謳歌している。しかし、そうはいってもそうであるべきなので、この言葉は美しいのだ。同じく、未来と希望についての美しい言葉にふさわしい美しい音楽だった。

良い舞台だった。


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