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日々の破片

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2023-08-30

_ 旅立ちの時

テレビをつけたら、何か映画をやっていたので観た。

見始めたところでは、家族(兄弟と父母の4人)が引っ越してきたところで、どうも逃亡生活を送っているらしい。

父親の母親が死んだという連絡をもらって、FBIが盗聴しているから公衆電話で話したのが最後だというようなところから、どうも両親がベトナム反戦運動の頃(時代から逆算して)に過激派で今も指名手配されているらしいことがわかってくる。

今は、シンパなどの伝手をたどって各地で労働運動を組織したり地道な活動をしているらしい。

と、両親の話かと観ていたら、兄が学校に転入するところから主役はどちらかというと兄のほうらしいとわかると同時に、一緒に観ていた妻がリバーフェニックスじゃんと言い出した。

初見だがリバーフェニックスがブレイクした後に作られた映画で、なんだアイドル映画かと消そうとしたが、あまりにも映画としてうまいので結局全部観てしまった。

高校では選択科目が2つあるので、音楽と家庭科を選択する。え? 家庭科を選ぶの? と編入手続き(すべての書類は偽造なのだが)をしている教師が確認する。はい、父が料理人なので僕も料理を学びます。(というか、男は家庭科を選択しないのが普通なのか。後のほうで、授業の調理実習で男が一人で女生徒(恋人でもある)に、なんであんたがここにいるの? と聞かれたりもする。)

音楽の授業では教師が最初マドンナをかける。と、黒人の生徒が立ち上がって踊り始めてみんなも踊り始める。兄(マイケルという名前だったかな?)だけはまじめそうな顔をしている。

次に教師はベートーヴェンの曲をかける。生徒たちはうんざりし始める。

そこで教師は質問をする。違いは何か?

指名された生徒が「あとのほうのは退屈」とか答えると、「それは君の主観ですよね」と教師。次に兄を指名する。

「ベートーヴェンでは踊れない」

「正しい。なぜ踊れないか考えてみよう。テンポとリズムの問題だ。」と、授業は音楽の構成要素の核心に迫る。うまい授業だ。

授業が終わって教師は兄に訊ねる。君はなぜベートーヴェンだと知っていたのか?とか楽器は弾けるか? とか。

兄は悲愴を弾く。というか、メリハリがついていてやたらとうまい。指も合っているし、なんだこの映画? とこのあたりからまじめに観始めることとなった。

教師はすっかり兄の才能に惚れ込み、家に来い、ピアノを弾けと勧める。

一方、家族としては父親はレストランで働き始め、妻は歯科医の受付になる。

教師の家に兄が行く。呼び鈴を押しても誰も出てこない。しばらくして、扉の鍵が開いていることに気付いて、ごめんくださいと言いながら入ると、ちょっとしたサロンがあってピアノがある。では弾くかと弾き始める(響きはブラームスのようだが知らない曲)。

しばらく弾いているとカメラは2階のベッドでヘッドフォンをして寝転んでいる少女(なんだが、最初は教師の妻かと思ったくらいに老けてみえる)を映す。ヘッドフォンを外すとピアノの音が聴こえてくるので階下へ行く。

最初は微妙な反発などはあるが、結局二人は愛し合うようになりデートを重ねる。

これらのシーン(水辺でのロングなど)が美しい。兄が崖を転がり落ちて、その後を少女が追うところとか素晴らしい。この作家は名匠じゃん。

彼女はそれとなく兄を誘うが、兄は帰ってしまう。

関係がぎこちなくなったので兄から告白をすることとなる。僕たちの家族は一か所に留まることはできないし、僕はマイケルではない。

一方、兄の才能をどうあっても伸ばしたい教師は、ジュリアード音楽院への推薦状を書き、実技試験を受けさせる。

それとなく兄が父親へ話すと、ブルジョア音楽はだめだとか逃亡生活だからだめだとか、それを認めると家族は離れ離れになって、公衆電話でたまに連絡を取ることしかできなくなるぞとか話す。一方で、子供の自立について認めるのが当然のような考えが頭の中をぐるぐるしているのがわかる。映画作家も抜群だが、役者もうまい。

実技試験では圧倒的な演奏を行う。というか、メリハリのつけかたが実に良くて、一体、だれがピアノを弾いているのか? と疑問が湧いてくる。しかもリバーフェニックスの指や腕が音楽に合っている。まさか本人が弾いたのを録音しているということは無いよなぁ。

試験官から褒められてもクールに退室するが、ロングで建物を出て、通りを渡るまでの、喜び爆発表現が実に良い。

そこにかっての同志が訪問してくる。M作戦を実行する。

父親はきっぱりと断る(当然のように妻と相談しながらで、この家族がまともな考え方の持ち主であることは常に示される。危険を回避するため以外については、基本的に子供を含めて家族の合議制で運営されている)。おれたちはテロリストではない。

どうもFBIに追われる原因となったのは、爆弾テロを行ったことらしい。爆弾テロといっても、建物破壊による労働を不可能にさせる、外部からの強制ストライキ目的なのだが、失敗して、建物だけではなく人間を失明させてしまったことが影を落としているらしい。爆薬の量の調整と爆風に対する無知から大量の死傷者を出した狼のダイアモンド作戦みたいなものか。

母親は自分の父親を支援者を通じてひそかに呼び出して、子供を託す約束をとりつける。

この父親はずっと無表情を通して、別れた後に複雑な感情を示す。これまた良い役者だ。

抜群だった。観終わってからシドニールメットと知り、こんなに良い作家だったのかと認識を新たにした。

ピアノはどうもロスアンゼルスのピアニストで、リバーフェニックスの指導も行ったらしい。

旅立ちの時 (字幕版)(リバー・フェニックス)

_ クレイジーフォーユー

夜は川崎で劇団四季のクレイジーフォーユー。

初見のミュージカルで、1990年代にガーシュウィン兄弟の曲を利用してブロードウェイの連中が作った作品の輸入版らしい。

と言う程度の知識で観始めたが、始まるやいなや1990年代とは思えないタップダンスの饗宴のようなミュージカルで俄然おもしろかった。

舞台は1920~30年代あたりだろうか? 銀行家の息子は30過ぎてもダンサーになる夢を捨てきれずにうろうろしている。母親は家業を継がせたいし、謎の美女(なのだろう)が財産目当てで婚約者の座に収まっている(母親は認めていない)という不可思議な状況で始まる。彼は大物興行師の小屋に押しかけてはオーディションを無理やり受けては追い出される(を繰り返しているはずだが、舞台作品なのでいつもやっていることをあたかも最初のように設計されているのが魔術的でおもしろい)。もちろんタップダンスだ。

堪忍袋の緒が切れた母親は息子(ダンサー志望)に閉山した金鉱町の劇場(ゴールドラッシュのときは沸き立っていたが閉山してしまったためにただの廃墟状態)の差し押さえを命じる。

一方、その劇場では跡取り娘が郵便局を兼業することでどうにか生き残っているとはいえ舞台をかけることもできず、そもそも駅から歩いて1時間なので誰も来ないし、新自由主義者はさっさと見切りをつけて町から逃げているので、残っているのはどうにもならない人たちばかり。

しかし、その娘に跡取り息子は一目惚れしてしまったために、劇場を生き残らせ(かつ自分の興行を行いたいという願望もあり)るために大活躍を始めるのだが、銀行家=敵認定してしまった娘とはどうにもうまい関係を築けない。

一方、なんどもオーディションを受けたりうろうろしたりしていたおかげで、大物興行師のところの踊り子たちとは良い関係を築けているので、休暇中の彼女たちを呼び寄せて、ショーを打つことにする。

当然、駅から1時間の劇場に来る客はいない。

そこに踊り子の一人を追って、本物の興行師が登場。彼女のために劇場を再興させるために奮闘を始める。逆にそのため銀行家の跡取り息子はニューヨークへ失意のうちに去ることとなる。

が、驚くべき偶然が重なりまくり(それはコメディ系のミュージカルだから当然だ)ハッピーエンドへ向けて邁進していくことになる。

おれの浅い知識では、タップダンスはボージャングルが広めて(黒人を映画には出せない時代に、ボージャングルを出したかった連中(もしかしたらアステア自身かも知れない)がアステアを使って再現させたのが有頂天時代)、アステアが洗練させて(というのは今だとホワイトウォッシュってことになるのか? というか有頂天時代のボージャングルはまさにホワイトウォッシングだな)、ジーンケリーがモダンバレエと組み合わせて発展させてそこで終わった、ということになる。

とにかくタップダンスはストーミーウェザーをユーロスペースで観たり(「この小僧は良くエデュケートされた脚の持ち主だ」という言い回しが印象的で、この作品でeducateの深い意味を知ったといっても過言ではない)、バンドホテルにキャブキャロウェイを観に行ったりしたくらいに好きだ(翌日か翌々日に今は無きオリエンタルバザーの前でタップの二人組に会ったのも良い思い出となっている)。

トップ・ハット ニューマスター版 DVD(フレッド・アステア)

(それにしてもトップハットは素晴らしい)

が、ジーンケリーの発想、組み合わせの妙、技術はやはりずば抜けていて、現在生き残っているタップダンスはすべてジーンケリーの亜流ではないかと思わざるを得ないくらいにすごいと思う。

というわけで、クレイジーフォーユーもタップを踏み始めて車の屋根に乗ったり複雑に動き出すので、これはジーンケリーの後裔だなと思いながら観る。というか、そもそも音楽がガーシュウィンだから、そりゃそうなのも当然かも知れない。

巴里のアメリカ人 [Blu-ray](ジーン・ケリー)

(ジーンケリーの作品で一番好きなのは巴里のアメリカ人で、オスカーレヴァント(ルービンシュタインのピアノ協奏曲を録音していたので、むしろそちらを先に知った)との掛け合いもおもしろいし(今考えると、ロドルフォとマルチェッロの関係を画家と音楽家にずらした設定かも知れない)、最後の5人組が帽子をひらひらさせながら登場(ABCがルックオブラブのPVで大引用していたが、気持ちはよくわかる)してからの長い幻想シーンは信じがたい)

主役の白ずくめの役者/歌手/舞踏家が実に良い。

1幕では、年を食っているし単に物語進行上の役だと思っていた大物興行師が、2幕では主役と組んで、びっくり仰天の鏡映しを演じて、この人も凄い役者だったのだなと思い知った。というか、作品全体の白眉はこの二人の鏡映しの場だろう。こんなに楽しめる舞台は稀少だ。

実に満足。


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