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日々の破片

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2023-12-09

_ デッドマン・ウォーキング

東劇でメトライブビューイングの「デッドマン・ウォーキング」。

なんか、ジョイス・ディドナートの作品は最近は現代ものばかり観ているような気がする。

・最初にディドナートを観たのは舞台から落ちた翌日に車いすでロジーナを歌ったセビリアの理髪師のDVDで、それから随分年を取ったが、その頃と変わらぬ妙なポジティブさがあって実に好感が持てる歌手だ。

原作も映画も観たことないので、なんとなくゾンビ―オペラだと思い込んでいたら、まったく違った。そもそもデッド(死体)ではなくデッドマン(死を宣告された人間という意味かな)なのだった。絞首刑時代の「死刑台への13階段」のような意味らしい。

物語は死刑囚と文通している修道女が、会いたいとの手紙で刑務所に面会に行き、そこで相手が殺人犯だが罪を認めていないことを知る。再審請求も恩赦の嘆願書もすべてだめで最終的に死刑になる、というものだ。

というところまでを上映前になんとなく理解したので、これは冤罪ものによる反死刑の物語なのかな? と思ったら、演出のイヴォ・ヴァン・ホーヴェがビデオを使って、男による幸福そうな高校生カップルの襲撃、殺人、強姦を延々と映し出す(延々とというのは序曲が長いからなわけだが)ところから始まる。全然冤罪ものじゃないじゃん。

焦点は、あくまでも自分は無罪であると主張する男が、自分の罪を認めるか否かだった。

で、転機となるのは修道女が語った「認めることは自由になることだ」という1文なのだった。

これまで絞首刑や電気椅子、ギロチン、斧による死刑シーンはいろいろ観たが、毒注射(殺鼠剤と本人は読んでいるが、演出効果のためか本当にそうなのかは知らんが緑色の液体が腕の静脈から大量に送り込まれる)による死刑シーンは初めて見た。後片付けはクリーンなのは間違いなさそうだが、死ぬ本人がギロチンより楽かどうかは微妙だった。

音楽はなんというか、中途半端なミュージカルとオペラの合いの子のような作品でそれほど気には入らなかったが、2幕の最初のセガンの打ち下ろしによるアタッカからの始まりは衝撃的。悪いものではない。どころか、1990年代に作曲されたオペラとして例外的な大成功と再演が繰り返されているらしい。メトでは初演らしい。2幕、長過ぎておれは退屈したが、修道女とその同僚(ちょっと上の位っぽい)の2重唱は美しい。

スーザン・グレアムが母親役(無学なのは、修道女が代筆した再審請求の文章の中の単語を読めないことで示す)を歌うのだが、観ていて歌手スーザン・グレアムではなく母親その人のように観えて混乱した。とんでもない演技力だ(演出のうまさも光っている)。

演劇的におもしろいのは、1幕、アンゴラ刑務所に向かって修道女がスピード違反で切符を切られそうになる白バイ警官とのやり取りで、まったく本筋とは無関係なのになぜこれを入れたのだろう? 異様な暑さ、深刻な中に入れることが可能なユーモラスなシーン、罪を許すということ、といった要素を集約できているからかなぁ。

驚くべきなのはライアン・マキニーが2幕冒頭(ここでも2幕冒頭になる)で50回程度腕立て伏せをしながら歌って、さらに上体が上になった時点で手を打つ腕立て伏せをさらに10回くらい行うことで、オペラ歌手に求められるものがどんどん難度を高めているなぁと思わずにはいられない(マキニ―ならできるだろうというホーヴェの演出なのかも知れないが)。

最後に男が自分の罪を認めるところは確かに感動的で、罪を背負うということはこういうことなのかな? とイエスのことを考えざるを得ない(全然位相は異なるのだが、罪を背負って死ぬという点では同じことだし、おそらくその点がこの作品の重要/受容されている点なのではないか?)。

デッドマン・ウォーキング(スーザン・サランドン)

(ショーン・ペンはこの役に合っていると、後付けで思う)

Dead Man Walking: The Eyewitness Account of the Death Penalty That Sparked a National Debate (English Edition)(Prejean, Helen)

主人公の修道女は死刑反対論者でもあって、論議のための経験による著作を上梓したところベストセラーとなり映画化とオペラ化もされたという経緯があるらしい。


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