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ビックカメラの上に移転中のル・シネマでオリヴィエラの未見だった『絶望の日』。
なんか有名な文学者が自殺する映画としか知らないで行ったが、最近では珍しく多分ほとんど眠ってしまった。が、不快な入眠(未来世紀ブラジルとか、退屈で睡眠へ逃避)というのとは違って、実に心地よかった。これだけ心地よいのだから間違いなく名画だが記憶がほとんどない。
理由は明々白々で、パルジファル前奏曲がほぼ全編に使われているのだが、テンポが極端に遅い。記憶にある録音でこんなに遅いのは聞いた覚えがないからポルトガルの楽人によるものか。
その遅さに混乱しているところにもって移動中の馬車の車輪の回転を延々と映す。くるくる回転する車輪を眺めているうちに催眠術にかけられたのだ。間違いない。
途中、これも何度かトリスタンとイゾルデの前奏曲の冒頭のトリスタン和音が入る。これは実に良い塩梅なのでトリスタン和音を楽しみにしていると、また極端に遅いパルジファルとなり催眠術にかかる。
そうやって、金を求めて何度も爵位を要求しては断られて、最終的には子爵となるが、年金についてまた何度もやり取りが発生する。
息子の病気を診てもらうために遠方の医師に使いを出しては断られるというのを繰り返す。ついに医師が来訪することとなる。そこでまた催眠術が流れて、結局どう診断されたのかどういう治療方針となったのかが謎のまま時が過ぎる。
そして銃声。
最後、無調の室内楽が流れる。これは名曲だが、誰の作品なのだろうか。
おもしろかった。
『IT'S NOT ME』で使われているピアノ曲を聴きたくなってロシュフォールの恋人たちのDVDを探すが見つからない。代わりに買ったまま封を切っていない『恐怖分子』が出てきた。
なんということだ。
というわけで封を開けて妻と観た。
カメラマンらしき青年の脇で眼鏡をかけたふわふわ頭の女性が本を読んでいる。
こいつらがテロリストなのかなぁと観ていると(前提知識がエドワード・ヤン以外に無いのでテロルの映画、たとえば若松孝二の60年代の映画みたいなやつを想像していた)、路上で男が血を流して死んでいる。
銃撃がマンションの一室から行われる。
パトカーが近づく。
青年、カメラを手に町に出る。女性は本を読んでいる。
パトカーが近づく。
私服の警官たちがマンションを見る。銃撃。応援を呼んだ。
サングラスの警官がパトカーから降りる。
その一室で銃撃があったと大家から通報があったのだ。大家はおそらくブノワみたいなのだろうと想像していると途中で姿をあらわすが同世代のチンピラみたいなやつでおもしろい。
マンションの中で長髪半裸の男が、背の高い短髪の女性を窓から落として、自分も続く。警官が押し寄せて長髪を逮捕する。短髪のほうは身を隠してやり過ごしてから逃走する。足を挫いている。
小説を書き直す。そうか、小説は命掛けの仕事ではないからなとネクタイしめて男が去る。
なんだこりゃ。次々と登場人物が出て来る。群像劇なのか。というところで『恋愛時代』を思い出す。なるほどエドワード・ヤンだ。
さらに香港(年齢が合わないから別の役者だろう)登場。小説家に仕事をオファーする。微妙に怪しい。
夫は医局で課長の突然死を聞く。
かくして全員が別々に絡み合いながら自分勝手な人生を歩み、ラストは連続して2種類(最初夢落ちなのか?と思ったが、目が覚めるのはそれ以前が夢というわけではなく、新たな時間軸への巻き戻しなのだ)、最後は生まれ変わるという復讐なのだろうか。
息もつかせぬ抜群のおもしろさだった。
途中、プラターズの『煙が目に染みる』が流れて、プレスリーの『Are You Lonesome Tonight』を思い出した。
(なんかすごい価格がつけられているがわからなくもない)
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