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日々の破片

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2011-12-12

_ こうもり

新国立劇場でこうもり。

コジファントゥッティに続いてエレートがやって来て、エイゼンシュテイン。朗々と歌うし、踊りは踊る(春がどうしたというようなバレエの間に、くるくる回ってみせたりもしていた)、目配せしながら演技も軽やかで、実に好きな歌手だ。

アデーレは小柄な女性で、日本人の横顔よ、と歌う。

全体に、日本語を取り入れて(ただ、おれは外人がカタコトの日本語を交えると観客が笑うという構造がさっぱり理解できないので、それはおもしろくもなんともないのだが、一体、何がおもしろいんだろうか? それがいかにも看守が飲む酒がもったいつけて焼酎だというのはおかしいわけだが、確かに、それは安酒の代名詞であることだし、で、それを焼酎と日本語訳して、看守にショウチュウと言わせることは単なる翻訳の話であるわけで、それは別におもしろくはない。突然56、57とファルケ博士が日本語でカウントしながらストレッチを始めてロザリンデをごまかすのは突然の日本語がおもしろいのだか、ストレッチになるところがおもしろいのかは微妙なところだったが、というかなぜ50番台だというのもあるけど)セリフをとてもわかりやすくしているのは好感が持てる。1幕の最後でロザリンデに手紙が配達されて2幕でハンガリー人に扮して出てくるための話のつなげ方も考えた演出。

そういう演出上の作り方(こういうのも一種のカデンツァということになるのだろうか)テノール歌手の3幕はじめの名曲一フレーズ集もおもしろかったし、まず忘れてはならないのは、序曲からオーケストラが実に立派なものだった。指揮者はリングを振った時の人らしいが、リングでは取り立ててなんとも思わなかったが、こちらは細かいテンポの動かし方といい、音色の作り方とか良いものだった。オーケストラもうまいものだ。太鼓がとちったらどうしようかとか不安になるくらいに雷鳴が鳴り響き、時計が時を刻むし、弦はきれいに流れていく。東京フィルは蝶々夫人のときにも感心したけど、本当に良い音を出すなぁ。

急遽決まったオルロフスキー公爵は、歌は良くわからないが(そういう歌じゃないし)、立ち居振る舞いが妙なロシア人にぴったりだったし、ロザリンデも実にロザリンデ。我が家の掟の歌では2回目の質問してみろに対して、いきなりおたくの仕来りでしょ? と答えてしまう。

でも、やはり印象的なのはエレートで、最後の弁護士に扮しての質問中についに机の上に乗って朗々と歌いだすところのテンポと威勢の良さであるとか、1幕で夜会服(だと思うが、紳士の服装はわからんな)に着替えてきての立ち居振る舞いとか、哀しく始まりちゃかちゃかちゃかちゃかとなる曲での踊りっぷりとか、出てきて動いているだけでおもしろい。

あと、看守役の人と所長役の人の演技も良かったというか、まったく3幕を退屈しないで楽しめた。

・カーテンはコウモリの羽根がはえた人間が時計をチクタクさせているように見えるのでとても妙だが、ちゃんと見えていなかっただけかも。それとも、今度はエイゼンシュテインが(笑いものとしての)コウモリになるという意味なのかな。

・弁護士のかつらを取ると禿頭というのはそういう演出という決まりなのかな?

・1幕は室内ではなく、庭という設定。

・2幕のウォッカはいきなり瓶からエイゼンシュテインの口へ注ぎ込むという乱暴な演出。

・何度見てもネズミちゃんというのは不思議な言語感覚だな。しかもラッツみたいだし。

・手元のDVDで観たこうもりに比べると、エレートが若いので、エイゼンシュテインの雰囲気がが中年の嫌らしい親父というよりも、単なる軽くて陽気な遊び人という感じで好感度が高い。

・ルナール(キツネ)とシャグラン(恥というか、なんでこんな名前を選んだのか、教養がなくて名前の意味がわからん男という意味なのか、それともchagrinじゃない別の言葉なのかなんなんだろうか)のフランス語合戦(どちらもフランス語を知らないので単に固有名詞をパリーとかマルセイユとか言いあうだけ)の最後に麻布十番というのを混ぜて、おお日本語も喋れますとかやったのは、おもしろかった。たしかにアザブジュウバンというのはフランス語っぽい。

ヨハン・シュトラウス2世「こうもり」/クライバー指揮 [DVD](パメラ・コバーン)

(これを持っていて観ていたのだが、買ったときは2000円代だったのにマーケットはとんでもない価格付けをしていてさすがに呆れる)


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