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日々の破片

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著作一覧

2013-06-04

_ フーシェ

先日昼飯食った後、古本屋へ行ってうろうろしてたら、岩波のフーシェがあったので買った。読んだ。読み終わった。

ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)(シュテファン・ツワイク/高橋 禎二/秋山 英夫)

フーシェは、元々商人の息子で、しかし賢いので教会に入り、教師をやる(どうも革命前のフランスでは教会が学校の役回りもしていたらしい)。

が、革命の時代がやってくる。

フーシェは、ロベスピエールなどとともにナントの革命グループに入る。ロベスピエールの妹と婚約したり破棄したり(あるいはされたり、経緯はわかっていないらしい)し、裕福な商人の跡取り娘(しかし不細工)と結婚する。

よほど歴史の本にしつこく書かれているのか、ツヴァイクは妻が出てくるたびに「不器量な妻」「不細工な妻」「醜い妻」としつこく強調する。強調する理由のひとつに、(そういう価値観があることは当然わかる)それだけ不細工にもかかわらず、フーシェはこの奥さんに対しては最後まで非常に愛情を注いで、良き家庭人だったらしいからだ。もっともフーシェもブ男、醜いとか散々の書かれようである。

さて、フーシェは、常にたった1つの党、派閥、グループに属する。徹底的な嗅覚と才覚と立ち回りにより。それは、「多数党」だ。

というわけで、最初はジロンド党に入り、そこでロベスピエールと決別するのだが、ルイ14世への投票時にはジャコバンに入っている。そして、リヨンで大虐殺を指導する。激烈な共産主義者である。

が、やり過ぎた。おまけに(常に多数党という点では首尾一貫しているが)政治的にはまったく主張もなにもない。かくしてロベスピエールとの戦いが始まる。

フーシェは多数派工作を行い、ジャコバンの党首に選ばれる。

ロベスピエール激怒。本気で殺しにかかる。

フーシェ謝りながら、多数派工作を行い、テルミドールの反動をうまくまとめてロベスピエールを返り討ちにする。

が、あまりの無節操っぷりとリヨン指導がたたり、追放される。以後、バラスの庇護を受けながら、屋根裏でのどん底生活が始まる(豚飼いに落ちぶれていたらしい)。醜い妻と醜い子供、しかも子供はどんどん死ぬ。しかし愛情を注ぐ。(テルミドール直前にも、愛児(これも醜いらしい)が病気で死ぬという打撃を受けている)

バラスの天下がやって来る。警視総監となり、巧妙なスパイ組織を開発する。

そしてブリュメール18日にはナポレオンと会談をする。フーシェはナポレオンのまぎれもない天才にひれ伏す。一方ナポレオンはフーシェの遠見明察に感心する。バラスを追放し、二人三脚が始まる。この時期の王党派テロリストの摘発は実にかっこいい。

その後、ナポレオン追放時にはタレーランと組む。ナポレオンが戻って来た時にはナポレオンと組む。

しかしその間にナポレオン後について策謀を開始し、3人組体制を経て、ルイ18世に政治を売り渡す。(その直前に醜い妻を病気で失う)

しかし、マリーアントワネットの娘(超過激王党派)の徹底的な嫌がらせによって、公職追放、国家追放となり、オーストリア帝国での亡命生活を送る。(財産は没収されていないのだけが救い)最晩年にはイタリアのオーストリー占領地で少しはまともな暮らしを送る。ナポレオンの不出来な兄弟などかっての政敵、今は同じく追放された身分の人たちと昔話をしながら死ぬ。

曹操が袁紹の手紙を燃やしたがごとく、秘密警察時代に手に入れた多数の文書も消してしまった。

という一生だが、抜群におもしろい。

おもしろい理由は簡単で、フーシェがまさに現代人として描かれているからだ。理想も信念もなく、(ツヴァイクはルイ18世に政権を売り渡した点を非難するが、その一方で、諸外国との関係改善にはやむを得ないとも書く。結局、タレーランに死刑にすべき反王党派の名簿作りを強制された時点で、職を辞せば良かったのに、そうしなかったのが命取りだとしている)、金と名誉と権力はあっても、それを楽しく使うこともなく(おそらく)、ひたすら情報を蓄積、分析することに熱中し、特にこれといった感情もなく、ただひたすらに生き延びて情報を握ることに集中する姿が最高にかっこいいのだった。

ここまで無目的な人生というのはすごいことだ。理想の官僚の姿と言える。

(リヨンでは大虐殺を指導したが、それ以降は極力死刑を回避するために、先回りして脅して手を引かせるというテクニックを多用している。そのあたりのロベスピエールと対照的な非潔癖症あるいは人情味(というとなんかすごくこの人物にはあてはまらない感じだが、殺さないで済ませるということはそういうことだろうし、家族愛に満ちているという人柄もからむのかも。商人的な道徳心の持ち主と考えれば良いのかも知れないが、結局、理想「あるべき、でなければならない」があって政治をしているのではなく、おもしろいから政治をしている――というよりも、秘密を(自分に対して)明らかにしたいだけで、秘密を暴いて人々の関連性を明確化することが楽しいのだと想像してみる。つまりフーシェとは、フーシェをハブにして秘密警察と密告組織によってネットワークが張り巡らされた脳みそSNSなのだ――という余裕の結果だと考えられる)も評価ポイント)


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