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日々の破片

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2013-06-17

_ 言語都市

読了。

素晴らしくおもしろかった。というか、現代に至っても、こんなにSFなSFがあり得るのか、と読みながら讃嘆しまくる。

まずSFっぽいカタカナが頻出するが、ほとんど説明がない。そのため、記述された説明(イマーという言葉が頻出し、主人公はイマーに耐えられる能力を持つのだが、恒常宇宙論とは多分まったく関係なく、ワープ中に通過している空間だか時間だかのことだ)や、似た言葉(オートムという動くものが出てくるのだが、アンドロイドではないがあたかも人間のように自立して動くロボットの意味だ)から、それが何か類推し読むことになるのだが、その読者の読む行為が物語のキーとなることだった。

SFっぽいSFでカタカナがたくさん出てきて、奇妙な宇宙人との対話(ファーストコンタクトではなく、新たな次元への出会いの深化に関するという意味でセカンドコンタクトと呼んでも良いかも知れない)の話だが、Sは社会科学のほうのSだった。

舞台はイマーでとりあえず到達可能な最果ての星の人類かも知れない主人公が属する生き物の都市で、その星には元から住む宇宙人がいる。口が2つあるので言葉が同時に2つ発せられる。人類っぽい連中は、最初巧妙な翻訳マシンで彼らに語り掛けるがまったく通じない。実はこの連中の言葉は思考と発音が一致していなければならないからだ。マシンは思考がないのでどれだけ正しく発音しても意味が通じない。

という点を前提として、その星の奇妙な政治状況や社会体制が物語られ、宗主星からの介入とそれに由来する崩壊などなどが起きる。それらをうまく結び合わせて巧妙に変化を物語って、大長編らしい(Kindleで読んだので実際の量に対する実感がまったくない)が飽きさせることなく、最後へ向けて読むことになった。

時間軸はA→B→Cと3つの地点に設定され、最初はAとBから中心へ向かい交互に進むが、ある時点から、BからCへ向けて直線状に進む。妙な構成だが、最初のAとBから中心へ向かうところを、そう構成することで、背景を読者へ納得させたかったのかも知れない。そのくらい、念入りに物語を仕込む必要がある程度に、世界の前提が凝っている。

言語都市(チャイナ ミエヴィル/内田 昌之)

翻訳のせいか、そういう書き方なのか良くわからないが、比較的最初のほうで奇妙な書き方をしていて引っかかる。

結婚もすごく得意だったとは言えないが、ほかの多くの人びとよりはましだった。……くりかえすが、わたしは結婚が苦手なわけではない。

得意? 苦手? セックスの言い換えとして結婚という語を使っているのか? が、しばらくすると普通にセックスという言葉が出てくるのでそうではなく、それが結婚だということがわかり、では、その結婚というのはいったいなんなのか? と疑問に思う。すると夫が出てきて(主人公にして一人称の語り手は女性だ)、このふたりはいろいろ試すがどうもセックスはできていないらしいことがわかる。はて、どちらも人間型の生物のようだがどういう意味なのだろう? と不思議になり、さらに愛人が出てきたりして、しかし、この作家はガチバルビと異なり、セクシャルな描写はほとんどしないので、さっぱりわからない(ほのめかしにより、なんとなくわからなくもなくもない)。そこで気付くと、この作品において、語られることは、主人公が見聞きした範囲で、かつ、主人公が語っても良いと決めたことに限定されていることがわかる。このため、さらにいくつもの語られないことが(主に私生活に関して)出現し、それはあえて伏せた伏線のようでもあり、単なる陰影のようであり、実際、まったくなんの意味も物語上は持たないもののようであり、実に奇妙な雰囲気を作っている。

語られないことであっても、実際にそこで何かが行われて、何かしらの事実がある。というのも、物語のキーとなることだった。

と、細部まで巧妙なのだか、意図せずに巧妙な細部が作られたのか、読者が解釈する余地を十分に取って、まさに想像力による驚異が味わえる作品だった。

おもしろかった。


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