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日々の破片

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2013-11-15

_ 銃・病原菌・鉄

Kindle版になっていたので買って通勤中に読んだ。上から下まで。

これはおもしろかった。

端的には、ニューギニア人の疑問、なぜ西欧人はニューギニア人にさまざまな技術(政治機構のような社会的なものから、衣服のような工業製品まで)を伝えることができ、ニューギニア人はそれができないのか? という疑問への回答だ。

ユーラシアは東西に長い。したがって、同じような緯度での人の移動となるため、農業技術や家畜などの伝搬にほとんど障害がない。そのため、メソポタミアで始まった農業はユーラシア一帯へ広がる。ほぼ同時期に中国で始まった農業も同様だ。コーカサスに生息していた馬は全ユーラシアで家畜として利用されるようになった。

農業は、定住を可能とするため、1人の女性が毎年子供を産むことが可能となる。狩猟生活では移動が必要となるため、1人の女性が出産後、子供が自立して移動できるようになるまで次の子供を産むことはできない。仮に5歳で移動が可能となるとすれば、1/5の増加に過ぎない。

農業では余剰生産物ができるため、直接労働に従事しない人間を養うことができる。ここには政治家、宗教家、技術者が含まれる。技術者によって道具の革新が常に図られる。政治家によって効率的な人間集団の操作が可能となる。宗教家は他集団に対する侵略、略奪などを正当化し、構成員に自集団への利他的な貢献の要求を正当化する。また、これによって記録が必要となり、文字が生まれ、書記(という専門職)が生まれ、さらに教育が可能となる。すべては農業によって生産物に余剰があるからだ。

アメリカ大陸とアフリカ大陸は南北に長い。そのため、たとえば温帯で作られた農産物を利用した農業は亜熱帯では作ることはできない。このため、農業技術は狭い範囲で断絶する。かくして農業は発展せず、余剰生産はできず、政治機構や技術は進まない。

ユーラシアとアフリカには大型動物が生き残った。人類発祥の地であるため、おそらく大型動物は人類との付き合い方(逃げる、殺す、など)を心得るための時間があり、大型動物が多種類残った。

それより後に人類が進出したアメリカとオーストラリアでは、大型動物はすべて人類に食べられてしまった(南極でペンギンがのこのこ人間を見に来るのと同じようなことなのだろう)。

大型家畜は農業技術に重要な貢献をする。牛や馬が鋤をひくことで、人間には耕作できない地も、耕作可能となる。さらに、家畜と暮らすことで、家畜由来の病原菌への耐性を持つことができた。

アフリカには大型動物がいるが、家畜化できない。家畜化できるということは、飼料が低コストで(大型肉食獣はこれによって除外される)、繁殖が容易で(求愛行動が数か月に及ぶような動物は除外される)、集団生活が可能で……というような条件があり、これに当てはまる動物は、牛、馬、羊、山羊、ラマくらいしかいない。

アメリカでもトウモロコシとラマを手に入れたインカ帝国は帝国を構成した。しかし、鉄は産出しなかった。馬のような機動力がある動物はいなかった。家畜の種類の少なさはヨーロッパ由来の病原菌への抵抗性のなさとなり、インカ帝国は初期には馬の機動力と鉄の武器、防具によってやられ、最終的には病原菌により抵抗力を奪われた。鉄は武器と防具を発展させた。これらの武器は多人数を殺戮しても殺傷能力が落ちにくい。また鉄の農耕具は、家畜とともに生産性の向上に寄与した。

農産物もそれほど多品種というわけではないが、ユーラシアは交易によって他の地区へ移動できた。しかし、南北に長いアフリカとアメリカでは移動できず、オーストラリアにいたってはそのような植物は自生していなかったた。

中国が途中で文明競争から脱落したのは、行き過ぎた中央集権による。明代の途中で政争と北方への対応にすべての資源が向けられたため、技術発展が阻害されたからだ。一方、ヨーロッパでは複数の国家が戦争状態に常にあり、他国に抜き掛けて技術革新が必要だった。

人類は人類で、人種による差はないと考えられる。差は、住んでいた地域に自生していた植物が農業化可能だったか、生息していた動物が大型各地化可能だったか、鉄が産出したかに、依存した。ユーラシアで10000年かけて農業生産以降の歴史があるのに対して、アメリカの農業生産の歴史はたかだか数1000年、オーストラリアにいたっては数100年に過ぎない。時間が短すぎたのだ。

銃・病原菌・鉄 上巻(ジャレド ダイアモンド/倉骨 彰)

銃・病原菌・鉄 下巻(ジャレド ダイアモンド/倉骨 彰)

いやー、おもしろかった。なるほど、実に説得力がある。しかも書き方がうまいため、謎解きのような楽しさもある。また、家畜についてはまったく知らなかったので実におもしろかった。チータを数千匹飼育していた話は気に入った。

農業が最初から遺伝子工学だったというのもなるほど、と思わず膝をうつおもしろさ。自生している植物からおいしそうな実を取ってきて食べる。しばらく食い物には困らないとそこで暮らして食べ残しを捨てたり、排泄する場所に捨てる。そもそもおいしそうな実を取って来ているので、そこで選別された植物の子孫がゴミ捨て場や排泄場に育ってくる。おや? というわけで農業が始まる。したがって、農業が始まるには、選別と突然変異が条件となる。突然変異した種が持続しなければならないため、最初の農業では、自家受粉が可能な植物の存在が肝となる。接ぎ木のような技術は数1000年以上たってから生まれた。

そこで、ふと、日本というのは、世界史の縮図のようだと考える。

狩猟民族の縄文人に対して農耕民族の弥生人が後から来て、取って替わったり、融合させてしまったりする。戦国時代には科学技術が発達し(銃砲の作成能力では世界のトップとなり、造船技術も先進的だった)、徳川中央集権政府になってから停滞した(サツマイモの導入といったこともある)。

徳川中央集権政府は悪いことばかりでもない。鉄と大型家畜がいるため、新田開発もできれば鋼鉄の武器で武装し騎馬に乗った軍団もある。病原菌に強く、軍事能力も高いため、南北アメリカで行われたような侵略ではなく、比較的平和的な外交相手とみなされた。

始皇帝の宰相をつとめた李斯は、荀子に学んでいる時、痩せこけて人におびえて生活している便所のネズミと、太りまくってたまに人が来るとゆうゆうと逃げていく米倉のネズミを見て、考えた。どちらも同じネズミなのに、なぜこうも違うのだろうか? そうだ、生きる場が違うからだ。そこで荀子に言う。先生、人生の要諦を見極めました。ここは便所です。私は米倉たる秦へ行って仕官します。

李斯は正しい。問題は、米倉のネズミ自身は、自分が余裕で生きているのは米倉に住んでいるからだけだという点に気付かずに、便所のネズミより優れているからだと考えてしまうことにあるのだろう。

追記:気付いたが、最新の出版物のはずなのに、日本についての章は含まれていない。ダイアモンド『銃、病原菌、鉄』2005年版追加章。日本と韓国の近縁性を強調しているだけに、右翼には非常に評判が悪いものとなっているようだが(アマゾン評で人気が高いのはそのてのやつだな)、確かに外見は似ているし、書いてあることにもそれほどおかしな点はない。原書に後から入れたのは、韓国と日本という世界経済に影響を与えている国についての知識が原書を母言語とする人たちの間には余りにも乏しいから、情報を埋めておこうと考えたのかな。


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