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日々の破片

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2013-11-17

_ ロシア構成主義-ケントリッジ-ショスタコーヴィチ

メトの鼻を観に新宿ピカデリー。

夏に予告編を観た時から、構成主義風な舞台(と激しくモダンな打楽器音)をすさまじく楽しみにしていたのだが、堪能した。

演出+舞台装置は、ウィリアム・ケントリッジという人。もしかしたら、何かの展覧会で見たことがあるかも知れないが、バイネームとしては初見だ。舞台装置、背景に映写されるキネマトグラフィ(とロシア語風に呼んでみたり)、衣裳などに統一感を与えているのもケントリッジらしい。

最初、幕に不安定な構成物が映る。回転するとそれはショスタコーヴィチの横顔となる。リシツキーでおなじみの斜めになった直線と直交する直線、グスタヴォーヴィチのポスターに見られるコラージュ手法が随所に散りばめられていて、1920年代のロシアを舞台に再現する。

2幕の開幕直前には不安定なドローイングが描かれ、移動し追加され、スターリンとなる。いや、まだショスタコーヴィチはモダニズムを楽しんでいるから(1928年)、それはうがち過ぎだが、しかしトロツキーはアルマアタへ追放され、左翼反対派は息のねを止められているのだ。34年のスターリン独裁までもう少しだ。この幕の最後で鼻は顔に戻るが。

すると、この演出での鼻とは、革命によって飛翔した未来派、構成主義派、つまりはモダニズムであり、自由の象徴としているのだろう。

物語そのものはカフカの虫になる話と同時代性を持つ(もちろんゴーゴリが鼻を書いたのは1830年代でカフカの1910年代の遥か昔のことだ。ここではショスタコーヴィチの鼻の時代性に視座がある)。

床屋へ八等官(五等官が部長に相当するのではないかなぁ)が髪を切らせている。床屋の手が臭い。翌朝、床屋がパンを食おうとすると、妙に固い。鼻だ。こっそり捨てに行くが捨てることはできずに警察に捕まる。鼻は逃げてしまう。

八等官は朝目覚めると鼻が逃げ出していることに気付く。警察署長に相談に行くが出かけた後だ。ワシリー大聖堂を通ると、鼻が五等官に変装して歩いているのを見つける。戻れと怒鳴りたいところだが、相手は五等官、こちらは八等官なのでいやでも丁寧にへりくだって語り掛けないわけにはいかない。ついには鼻は逃げてしまう。しょうがないので新聞社に探し鼻の広告を出しにいくが、相手にされない。しかし、顔を見せると、新聞社の広告担当者はみな驚く。しかしそれまでだ。

警察は怪しいものを捕える。鼻だ。警察署長は鼻を八等官へ引き渡しに行く。子供の養育費に苦労していると言って、賄賂をしこたま請求する。やっと戻った鼻だが、顔につかない。近所のおばさん(娘を八等官と結婚させたい)の仕業だと考えて、友人に手伝ってもらいながら手紙を書くが、丁寧な返事が返って来るので考えを変える。鼻が戻らないのであれば、そのような結婚もありだなと考える(本当は、出世のためにも五等官の夫人に取り入って、五等官の美人の娘と結婚したいと考えている)。

翌日になると鼻は戻っている。八等官は近所のおばさんにあいさつをするが、お前の娘とは遊んでやっても良いが結婚などするものかと影で悪態をつく。五等官の美人の娘が通りがかるので気をひこうとする。

まるでアラゴンあたりが書きそうな話だが、19世紀の小説なのだ。

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)(ゴーゴリ/浦 雅春)

小学校か中学校のときに読んだが、あまりに奇妙であり、落ちもないので、途方に暮れた記憶がある。

ショスタコーヴィチは気が振れたかのように打楽器を連打し、叫ばせ、唸らせる。鋼鉄の音楽だ(プロコフィエフみたいだ)。

ケントリッジはさまざまな意匠をコラージュする。その素材の入手のために、ロシアの古本屋で百科事典を購入したとインタビューで語っていた。

第3インターナショナルのための会議場は1幕の比較的最初に出現する。衣裳の幾つかはマレービッチから採ったようだ。

これらのおかげで舞台美術が、とても気持ちが良い。ロシア構成主義には親しみがとてもあるからだ。

ロシア・アヴァンギャルド―未完の芸術革命 (パルコ・ピクチャーバックス)(水野 忠夫)

1982年、池袋西武劇場の芸術と革命展には何度か足を運び、手元には分厚いカタログが残っている。1980年代の初頭はロシア構成主義がブームになったからだ。20代の前半はロシア構成主義に囲まれていたことになる。

もちろん最初は、クラフトワークのマンマシンあたりでリシツキーの名前を知ったわけだが、1920年代ロシアの芸術は不思議なことに、奇妙なノスタルジアと誕生後100年が経過したのに相変わらず斬新で、工業後の最初にして最後の革命の熱狂の10年は本当に自由だったのだなと感じる。

人間解体(クラフトワーク)

(マンマシーンの邦題が『人間解体』だったのは当時としても驚きだったが、どういう発想だったんだろうなぁ?)

だがそれは悲しさでもある。その10年後には17世紀以前のような専制が襲ってくるからだ(が、ポスター美術にだけは意匠化されてしまって安っぽくなったとしても、生き残ることになる)。


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