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日々の破片

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2015-02-28

_ 申し訳ない、御社をつぶしたのは私です

読了。電車の中で3日くらい。

予想していた内容とは全然異なっていたが、悪くなかった(このタイプの本で「良かった」という評価をおれがすることは無いので、ずいぶんと褒めていることになる)。

買った時に想像していたのは、大失敗のような本だ。

大失敗!―成功企業が陥った戦略ミステイクの教訓(ジャック トラウト/Jack Trout/島田 陽介)

失敗の考証はおもしろい。

著者が、大手コンサルファームの出身ということで、当然、次々と倒産した会社に対してこうコンサルしたけど結果はこうなって、後から考えるとこれこれが間違いだった(読み不足だった、時期が悪かった、体制が悪かったなどなど)みたいな内容の羅列だろうと考えたのだった。

が、そうではなく、もう少し抽象的で、コンサルというのは~という限界があり、しかも~というビジネスモデル上の欠陥があるために、コンサルを受けた企業にとっては~となるために、うまくいかないことが多い。考察すると~していたときは成功の機運があったわけなので、実は~というのが良かったと考えられる、というような考察を経験談として複数の視点から書き起こして、結果の知見から得た新たなコンサル方法の提言と売り込みだった。

それだけならば、それほどおもしろいものではないので、途中で捨てるところだ。

が、最後まで読んだのは、次の点において、実に興味深い点があるからだ。

それはSI事業との共通点だ。

上で抽象的に~でどうしたとか書いたが、典型的なパターン(もちろんアンチパターンである)について書くと次のようになる。

ハーバードビジネススクールのX教授が成功している特定企業の性質に着目して分析した結果、成功した企業の特徴を5つにまとめ、その適用方法について本を書く。ベストセラーになる。コンサルファームの中のとびきり頭が良い連中が、その本に基づいてメソッドを開発してツール化する。ファームのコンサルはそのメソッドを身につけツールを売り込みに行く。成功したい企業はとびつく。コンサルはメソッドに基づきツールを適用しレポートを作成する。おしまい。

これって、どこかで見る光景だ。

成功したプロジェクトを分析しXO指向というパラダイムや、XO手法というメソッドが生まれる。それをSIerの中のとびきり頭が良いやつがツール化する。あるいは成功した企業がプロジェクトに適用して成果を挙げたツールが生まれる。SEがIT化に成功したい企業にツール込みで売りにいき大規模なシステムを受注する。ソフトウェア開発にはそのツールなりメソッドが適用される。大成功疑い無しだ。おしまい。

御社をつぶした著者は、ツールとメソッドに対して後付けの岡目八目で批判的になる。そうではなく、成功している場合、その成功はそれまで顧客企業ではなかなかうまくいっていなかった事業部間のコミュニケーションが全社プロジェクトに取り組む中で円滑になったり、ブレーンストーミングの過程で互いの利害関係の矛盾に気づくことだったり(それによりどの部分で協調する必要があるか気付いたり)、むしろ人間と人間関係の改善に強く依存している。したがって、ツールとツールのデリバラブルよりも、参加型の検討過程こそが重要だと考えるほうが理に適っている。

ふむ、それって、システム開発では、要件と機能での顧客巻き込みだし、機能と開発では開発者巻き込みではなかろうか。(ビジネスコンサルと異なりシステム開発が2段階になるのは、要件定義とシステム構築の2段階になるとおれが考えるからだ)

抽象的にどうあるったほうが良かったかを叙述してあるので、他の分野に当てはめた場合の合致不合致が検討しやすいのだ。そして人間活動はビジネス分野が違っても心理と本能と肉体的制約に基づいている以上基本的にそう大きくは変わらない。

ということは、この本の論点の確からしさは、おれが読んでも役に立つのだろう、と考えるにいたったからだ。

そういう視点で読むと、実はそれほど目新しいことはなく、当たり前のことの再発見の過程が書かれているだけの本ではある。しかし、再確認することは、結構、新鮮でもある。

結果的に読んで損はしなかった。おそらくおつりが来ている。

あと、最後のほうになると書くことに困ってページ稼ぎのためにやけくそになったのか、あるいはそういう計算なのか、実におもしろいツールを紹介していて、これが楽しい。

それは、「私生活ならどうか」と考えるという方法だ。仕事上の取組みがうまくいく理に適った方法なのであれば、それは仕事以外の場でもうまくいくはずであり、そして何よりも良くわかっているのは現実の私生活なのだから、そこにあてはめて考えてみるというツールだ。いろいろ例が出ていて、くだらない(ということを筆者は十二分に意識して書いているのは、それが御社がつぶれる理由の一つだからだ)。

例)戦略計画開発。(換骨奪胎して書くと)HBS出身のコンサルタントはMBAを取るべきかどうか迷っている。そこでライフコーチに今後5年のライフプランの設計を依頼する。ライフコーチチームは本人や家族、友人、ライバルと目される人などにインタビューを行い、過去の経歴などから次の計画を立てる。まずニューヨーク大学のロースクールへ入学し国際法を学ぶ。そして一流の国債法律事務所に入り、数年後には事務所の役員と恋に落ちて結婚し子供を作り、以降はパートタイムで法律の仕事を続ける。

この私生活版の戦略計画開発がもしばかばかしく見えるとしたら、それはなぜか。それが企業に対しての戦略計画開発にも当てはまると考えることはできないと考えられるとしたらそれはなぜか。

悪くなかった。

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。(カレン・フェラン/神崎朗子)

Kindle版の問題点:巻末の原注(参考文献の記述あり)が、テキストではないためフォントサイズ調整ができない。具体的にはおれの肉体ではKindle Paperwhiteの原注を読み取ることは不可能だ(メガネをはずして超近眼モードに変更しても5cmくらいまで近づけないと判別できない)。なんだこれ? (原注を読む人間はいないという出版社側判断なのだろう。原注や参考文献を訳書から落とす出版社もあるらしいから、読めないまでも付けるだけ良心的なのかも知れない)


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