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日々の破片

著作一覧

2015-05-05

_ 突然漂流教室

妻がレンタルマンガで漂流教室を借りて読んでたので、おれも読んだ。

子供(といっても小学高学年の頃だと思うが)の頃、少年サンデーの連載を途中まで読んだが、怪虫のエピソードのところのあまりの恐怖に読むのやめてしまったまま読まずじまいだったのだった。どれくらい恐怖だったかというと、今でも舟虫とか見ると飛び上がって逃げ出すくらいで磯には近寄れないくらいの恐怖だ。

それにしても、読んでつくづくと、楳図かずおの溢れるばかりの才能に舌を巻く。

次々と襲い掛かる難関はちょっとぶっ飛び過ぎのきらいもあるけれど(たとえばペストとか)子供の知識で恐ろしさが十二分に理解できるように巧妙に練り込まれているし、伏線の回収っぷり、泣かせどころ、リアリティ(ペストとかが出てきてどこにリアリティとは言えるが、にも関わらず恐怖の質感が現実的なのだ)、まったく見事なものだ。

ただ、70年代ならではの恐怖(ちょうど今の中国みたいな強烈な公害―汚染による奇形生物の発生であるとか成分分析ができていないためあまりにも怪しく謎に満ちた汚染大気(スモッグというのだが今は見かけない言葉だ)やらゴミの処理ができない状態(今でこそ燃焼力の強さとそれを許容できる炉の建設などによって石油製品も燃やせるようになったが、当時はプラスチックの廃棄がうまくできないため大問題となっていた)などが、その当時にはリアルな恐怖の未来として表現できたし、それが現実的な恐怖の触感として生々しさがあったのだが、現在の目から見ると、ちょっと怖がり過ぎのきらいも無いわけでもない(でも、このあたりの恐怖がトラウマになっていると、いわゆる「放射脳」的な感覚としていろいろと今でも目にする大仰な反応となるのかも知れない。その意味では現代にあっては、70年代的な恐怖というものを理解できる実に興味深いマンガだ)。

しかもラストには完全に感動、感服してしまった。異様な恐怖や残忍な殺し合いの果てに、こうまとめるかというくらいにきれいにまとめて感動させるのだから、楳図かずおは本当にすごい作家だ。

物語はいきなり小学校がまるごと現在の現実から切り離されるところから始まる。学校のあった場所にはただの穴がある。主人公の同級生で忘れた給食費を取りに家に戻った遅刻生徒を用意することで、外側からの観察をうまく処理している。

一方、小学校から見ると校門の外は砂漠だ。砂漠の外の危険性というものを表現するために、すぐに何人か生徒が死ぬ。

主人公は、おそらくうしおととらに影響を与えたに違いない(性格と髪型)うしおのような小学校6年生。地味に支えてブレーンとして知識をそれなりに(しょせんそれなりでしかないところもリアリティがある)伝えることができるオバQのハカセのような目つきのおかしい5年生(6年生かも)、同級生のちょうどドラエモンの出木杉そっくりな優等生の学級委員長、主人公と時空を超えて母親とつなげることができる脚が悪い5年生の女の子、主人公のことが気になる6年生の女の子、3歳児、取り残された給食納入業者、先生たち、それから1970年代現在に居る母親と父親(当時の良き父親像らしく、あまり介入しないが、ここぞというときは理解者としてサポートするのがおもしろい)といった登場人物が(子供が読んでも理解できる程度に)複雑にそれぞれの思考によって活動しながら、生き残るためにあがきまくる。

当然のように、大人(力があってでかくて車を運転できて嘘を平然とつく)と子供の関係、子供同士の関係、暗黒、食糧不足、水不足、次々と屋上から飛び降りる子供たち、宗教によるごまかし、異様なキノコによる侵略、病気、暴力、これでもかこれでもかとすごい勢いで子供が感じる恐怖が襲い掛かって来る。

主人公は決して完璧超人ではないので、大事な話を聞かずに味方を殴って駆けだしたりするし、副主人公も平気で大事な約束を忘れたりもする。出木杉君の役回りの子供も出木杉君ならではの苦悩もあり、反逆もあるし、裏切りもある。

漂流教室〔文庫版〕(1) (小学館文庫)(楳図かずお)

少年サンデーのマンガだな、と思う点があって、母親と子供の関係がすごく強く表現されている。

少年マガジンはおそらく永井豪のススム君のせいもあって(いや、ない。想定読者層が少し上だからだろう)親はほとんど物語に介入しない。唯一の例外が星飛雄馬と親父の関係(母親ではない)くらいだが、それにしても方向が違う。

怖すぎる永井豪 (トクマコミックス)(永井 豪)

少年ジャンプは友情!なのでそもそも家族はあまり描かれないし、描かれても母親は主人公に食事を提供し、父親は主人公に金銭的な保護を提供する役回りがせいぜいだ。

が、少年サンデーはなぜか印象的な作品は主人公と母親が相当強い関係を持っているし、主人公の家庭とそこでの生活が描かれることが多く感じる。なんでだろう? ママさんおかわりのオバQにしてもそうだし、そこが小学館というものかも。


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