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日々の破片

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2020-10-04

_ 新国立劇場の夏の夜の夢

復活上演なので楽しみ。何しろマイスタージンガーもジュリオチェザーレもコロナの影響で観られなかったのだ。

というわけで、キャストは日本人、演出も本来のマクヴィカーではなく弟子筋の人(だと思う)。という、ある意味、珍しい舞台だったが、実に良いものだった。

ブリテンは、ピーターグライムズ以来だ。

事前の知識は(シェークスピアの夏の夜の夢は良く知っているとして)全然なく、1960年の作曲ということだけプログラムで見た。

序曲はグリッサンドを多用した、おそらく妖精が飛び交う音楽。複雑にして精妙、しかし簡素な響きの豊饒さという不思議な感覚を味わう。ブリテンの音楽は実に良いものだな。

3幕の職人たちによる劇が不思議とヴェルディのようなメロディが飛び交う以外は、基本として調性を感じさせる無調で、結局、このあたりの音が一番しっくり来ると思った。

とにかく、響きの美しさが素晴らしい。演奏も指揮も無論良いのだろう。

舞台は一見すると、妖精の森のようだが、よくみると左側に窓枠の影が映る。

イモータンジョーが暮らす廃墟都市の温室みたいだなあと思う。

現代人の廃墟で、ようように変容を遂げた未来人が現代人(実際にはシェークスピアの時代だから近代ですらないわけだが)を真似る遊戯にふけっているかのようだ。それがちょうど、シェークスピア時代の人間が古代ギリシャのアテネの人たちを演じながら、そのアテネの人たちがさらに昔の恋人たちの悲喜劇を演じるメタ構造にメタ構造を重ねたかのようでおもしろい。

実はマクヴィカーということで、タイタニーアとボトムのやり取りは間違いなく下劣極まりない一場として描くのかと思っていたら(ロイヤルの全裸可能な舞台ならなにかものすごそうだ)、全然違って女王の寝台が宙に浮かぶのには逆に驚いた。

・というか、シェークスピアの才能は本当にすごい。同じ恋人が死んだと思い込んで死んだ恋人を嘆いて死ぬ話を夏の夜の夢ではばかばかしい喜劇として表現し、ロミオとジュリエットでは文句ない悲劇として表現する。ここまで物語を相対化できる視点こそがシェークスピアの凄みなのだろう。


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