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日々の破片

著作一覧

2021-05-03

_ 博物誌的マンガ

ダンジョン飯が圧倒的なのは、妹救出であるとか謎の日本人であるとかエルフのダンジョン破壊作戦であるといった人間ドラマではなくダンジョンという場とその場を構成している諸要素のもっともらしい分析にあるのだとしたら(で、そう考えているからこう書いているわけだが)、21世紀になってわれわれは博物誌的マンガという新しいジャンルを手にしたことになる。

ダンジョン飯(九井 諒子)

いろいろ考えてみても、ロン先生の虫眼鏡のような博物誌的マンガではなく本物の博物誌のマンガ化くらいしか思いつかない。

(努力友情根性が大テーマであれば、当然、博物誌的マンガとなるわけもないので集英社系はすっぱり考える必要もない)

とはいえ、たった1作ではそういうジャンルと認識できるわけもない。

次に博物誌的マンガを読んだのは、ダンピアのおいしい冒険でびっくりした。抜群におもしろいではないか。(最初、神保町の本屋の窓にでっかなポスターが貼って合って気になって、結局近所のあおい書店で買った)。

本当に博物誌学的な記録を残した船乗りの記録を元にしたようだが、マンガとして完全に昇華しきっているのだから、これもまた博物誌的マンガといえる。そもそも「僕は知りたい、世界の全てを」という帯の惹起が、支配するためでも、征服するためでもなく、ただただ純粋に知りたいのだという欲望として確かに成立していた。

ダンピアのおいしい冒険 1(トマトスープ)

(早く続きが読みたい)

で、昨日知ったのが、ヘテロゲニア リンギスティコで、ついにここまで来たかというか、3作を数えるに至ったのだから、ここでジャンルとして確立したと言える。

これはおもしろい。腰を痛めて療養生活に入った教授の代わりに魔界へ旅立った院生あたりが、異種とコミュニケーションをとるために、肉体の構造であるとか(たとえば蛇に手が生えた種とは、振動でコミュニケーションをとる)、食生活であるとか、社会構造であるとかを観察して回る(一応、人間ドラマとして人間界と魔界の望ましい共存のための調査であるとか、教授の思想背景を知って行くとか、年老いたケンタウロスが優しいとか、なぜオークの言語学者がいるのかといった物語を駆動する謎やミッションはそれなりに用意してはあるが、明らかに作品の主眼はそこではない)。

ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~(瀬野 反人)

(妙に安いと思ったら、半額セール中だった)

_ 帝国劇場でレミゼラブル

子供が急用で行けなくなったとかでレミゼラブルのチケットをもらったので行ってみた。

映画版をビデオかテレビで観たことはあるし、ミュージカルのCDとかは聴いていたが舞台は初めてだ。

いろいろ発見があった。

・ABCが歌う赤と黒は、共産主義(平等)の赤と絶対自由主義の黒のことだと思っていたから、赤も黒も同盟して第2王制の反動政権を叩き潰そうという革命歌なのだと考えていたら、赤は夜明けで黒は夜、赤は希望で黒は絶望みたいな歌詞(岩谷時子の訳が極端な意訳の可能性もあるが、そもそも仏→英の時点で変わっているだろうし)で驚いた。

・ガブローシュがテナルディエの息子として一切説明されていないので、単なる空から送られてきた天使みたいになっている。(エポニーヌとの対比がおもしろいのに)

・ジャベルの星の歌って、なんとなく最後橋の上で歌うのかと思ったら、途中の橋の上だった。

子供から、照明の使い方がおもしろいと聞かされていたが、確かにスポットライトをやたらとうまく使う(特に、バリケードのシーンだな)が、あまりにも天(要は神)に焦点を合わせ過ぎているような気がしてイデオロギーとしてはそれほど感心はしない。

それでも舞台というのは良いもので、レミゼラブルの構造が実にうまく浮き彫りになっていて感心した。

基本は、ジャンバルジャンとジャベルの対称にある。どちらも出自は最下層に近い(映画だとご丁寧に黒人にしていて、当時のフランスの有名な黒人といえばアレクサンドル・デュマ(混血だが)自身もそうだが、その親父がいろいろ軍隊で功績をあげてもなかなか差別されていてうまくいかないとかある、より強調されているのは牢獄で生まれたことまで説明しきれないからだろう)が、片方は才覚をもって工場経営者(ブルジョア階級だ)にまで上り詰めて(その後もうまく資産運用をしているのは間違いない)、片方は当時フーシェによって創設されたばかりの近代的な国家警察の刑事という最新の職業人(ホワイトカラーに近いが、それでも雇用されて給与を得ているのでプロレタリアート)として職務のために誠心誠意はりきる。

次がマリウスという貴族の子供とテナルディエというルンペンプロレタリアートの代表でこの二人の共通性と対称性が抜群。特に興味深いのはテナルディエで、宿屋の主人のときは町の哲学者を自称し、結婚式の場には男爵として乗り込む。暴動時には火事場泥棒として活躍し、ジャベルともなあなあの関係を持っていたりと、とんでもないエベール親父だが、まあそうだよなぁとユーゴーの社会観察の鋭さに感動する。

そしてエポニーヌとコゼットというのが一見するとマリウスのせいで対称のように見えるが、そうではなく、同じルンペンプロレタリアートの子供のエポニーヌとガブローシュで、ここで、それまでの時代であれば労働力となる男子優先で育てて女の子は捨てるのが通常だったのにもかかわらず、この新しい時代の階級であるルンペンプロレタリアートでは男の子を捨てて女の子を取る、という対称性のせいで、ここでもユーゴーの観察眼の鋭さに舌を巻く。

_ 帝国劇場でレミゼラブル

子供が急用で行けなくなったとかでレミゼラブルのチケットをもらったので行ってみた。

映画版をビデオかテレビで観たことはあるし、ミュージカルのCDとかは聴いていたが舞台は初めてだ。

いろいろ発見があった。

・ABCが歌う赤と黒は、共産主義(平等)の赤と絶対自由主義の黒のことだと思っていたから、赤も黒も同盟して第2王制の反動政権を叩き潰そうという革命歌なのだと考えていたら、赤は夜明けで黒は夜、赤は希望で黒は絶望みたいな歌詞(岩谷時子の訳が極端な意訳の可能性もあるが、そもそも仏→英の時点で変わっているだろうし)で驚いた。

・ガブローシュがテナルディエの息子として一切説明されていないので、単なる空から送られてきた天使みたいになっている。(エポニーヌとの対比がおもしろいのに)

・ジャベルの星の歌って、なんとなく最後橋の上で歌うのかと思ったら、途中の橋の上だった。

子供から、照明の使い方がおもしろいと聞かされていたが、確かにスポットライトをやたらとうまく使う(特に、バリケードのシーンだな)が、あまりにも天(要は神)に焦点を合わせ過ぎているような気がしてイデオロギーとしてはそれほど感心はしない。

それでも舞台というのは良いもので、レミゼラブルの構造が実にうまく浮き彫りになっていて感心した。

基本は、ジャンバルジャンとジャベルの対称にある。どちらも出自は最下層に近い(映画だとご丁寧に黒人にしていて、当時のフランスの有名な黒人といえばアレクサンドル・デュマ(混血だが)自身もそうだが、その親父がいろいろ軍隊で功績をあげてもなかなか差別されていてうまくいかないとかある、より強調されているのは牢獄で生まれたことまで説明しきれないからだろう)が、片方は才覚をもって工場経営者(ブルジョア階級だ)にまで上り詰めて(その後もうまく資産運用をしているのは間違いない)、片方は当時フーシェによって創設されたばかりの近代的な国家警察の刑事という最新の職業人(ホワイトカラーに近いが、それでも雇用されて給与を得ているのでプロレタリアート)として職務のために誠心誠意はりきる。

次がマリウスという貴族の子供とテナルディエというルンペンプロレタリアートの代表でこの二人の共通性と対称性が抜群。特に興味深いのはテナルディエで、宿屋の主人のときは町の哲学者を自称し、結婚式の場には男爵として乗り込む。暴動時には火事場泥棒として活躍し、ジャベルともなあなあの関係を持っていたりと、とんでもないエベール親父だが、まあそうだよなぁとユーゴーの社会観察の鋭さに感動する。

そしてエポニーヌとコゼットというのが一見するとマリウスのせいで対称のように見えるが、そうではなく、同じルンペンプロレタリアートの子供のエポニーヌとガブローシュで、ここで、それまでの時代であれば労働力となる男子優先で育てて女の子は捨てるのが通常だったのにもかかわらず、この新しい時代の階級であるルンペンプロレタリアートでは男の子を捨てて女の子を取る、という対称性のせいで、ここでもユーゴーの観察眼の鋭さに舌を巻く。


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